【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

YouTubeチャンネル『世界の名作文学を5分で語る』のブログ版です。世界と日本の名作紹介と様々な文学批評 そして自作の詩と小説の発表の場です

2018-01-01から1年間の記事一覧

自作の童話 「 雲の妖精の物語 第二話」 by 海部奈尾人

文学創作 小説 詩 メルヘン 童話 ポエム エセーのためのカフェ 私は雲の妖精です。 世界中の雲の中にときどき目覚めてはあれこれ語るのが私の生き方。 昨日は月と一晩中話をするうち、切れ切れに私は消えてしまったのですけど・・・・ 今夜は眠れずに窓から…

自作の小説「祖父の時計 第3話」境界の村シリーズ

やがて、わたしは母に連れられて外に出た。その日は曇っていたが、祖父が燃えている間は、不思議と日が射していた。どんなに雨が降っていても、火葬の間は止むのだと聞いたことがあった。その天の配慮のような現象に心を打たれた。 母は、煙突から立ち上る煙…

自作の詩 始原の足跡  by辻冬馬

詩 始原の足跡 それは道だったのだろうか 百万年前の アフリカの大地に残る親子三(人)の足跡 それは生活というものの痕跡だったのか 誕生間もない新種の サル科類人目ヒト種の(決してヒト科ではない) 餌探しの途中の偶然の一歩だったのか それともそれは…

自作の小説「祖父の時計 第2話」境界の村シリーズ

翌日、祖父の遺体は神妙な手つきで裸にされて、全身を湯で洗われ、髪や髭を剃られ、爪もきれいに切りそろえられた。あの世への旅立ちなので、身なりを整えるのだという話にわたしは妙に納得した。それらの儀式の一連の流れは、あの世が存在するという大いな…

自作の小説「祖父の時計 第一話」境界の村シリーズ

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 祖父の時計 母方の祖父は村で一番貧しい家に生まれて、七十八年後に最も裕福な人間として死んだ。 わたしが小学校に入学して間もない頃、祖父は入院した。治らない病気にかかってしまったので、病院からもう生…

自作の詩「風の終点のその向こう側」by辻冬馬

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 風の終点のその向こう側 蝶々が風と別れて 海を前に羽を休める そこでまどろみから覚めて 海に去る者たちへ 別れの言葉をかけていた 数え切れないほどの何かが 海に散った 何もかもが 当たり前のように消えて…

自作の小説 「お別れに第8話最終回」:猫の村の物語

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 最後の日が来た。 その朝、ミルはいなかった。ミルはいつも母の枕元に寝そべり、母が起きたら一緒に起き上がり、母について階段を下りて行き、餌をもらうという習慣だった。ただ時々はボス猫に呼ばれて広場に…

自作の詩 風の終点  by 辻冬馬

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 風の終点 蝶々が風の化身のように 陽光の中を ふわふわと流れ 大気の海の底で夢を見る 消えて行く風の囁き・・・ 蝋燭の火を吹き消すほどもないけれど 確かに作られた羽の動き すると次には周囲から坂を下るよ…

自作の小説【お別れに:第7話】境界の村:猫の村の物語

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 引っ越しの日が間近に迫っていた。 その午後、ぼくらは堤防で寝転がっていた。 亜季は起き上がって「気持ちいいね」とぼくに語りかけてくれる。 「うん、いろんなことがたくさん想像できるんだ。こうやって雲…

自作の詩 酒と酒の狭間で  by 海部奈尾人

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ その男は未来に向かって突進できず 夜の奥地で飲んだくれていた 酒の中にずんずん分け入っていけば その深みは日々の様々な困難から わずかの隙間でしばしの間守ってくれる だが輸血しているようなもので それ…

自作の小説 お別れに第6話 境界の村:猫の村の物語

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 学校では亜季のおかげでホームルームの時間にミルをどうするかを話し合ってもらえた。そのこと自体は嬉しかった。みんなユニークな意見をどんどん言った。しかしユニークなだけで現実的に決定的な方法は何もな…

自作の小説 境界の村:猫の村の物語  お別れに  第5話

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 海の光景を見下ろす二人・・・・・ 承前 それらすべてが午後の輝きの中に浮かんでいた。亜季の姿の背景に浮かんでいた。亜季がそこにいたからこそ覚えている景色だった。ぼくの村から見る海とはやや違う、人々…

自作の詩 星を巡る言葉   by  海部奈尾人

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 詩 一つの言葉が金星に乗った あの頃、旅の夜にあとさきかまわずしゃべっていた。 別の言葉が木星にぶつかり その人が期待通りのあいづちを打つ。深く心をくすぐる浮ついたセリフが煙のように部屋の中に漂う。…

自作の小説 境界の村:猫の村の物語  お別れに  第4話

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 一週間ほどして。ぼくは兄の部屋に呼ばれた。野口五郎が野口五郎岳に上る写真のポスターが貼られていた。ステレオはフル稼働で、その頃はいつもデビューしたての荒井由美か、吉田卓郎か井上陽水の歌がかかって…

自作の詩 シクラメンの香りの向こうに  by  辻冬馬

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ その頃好きだった女の子に もう二度と会えなくなったので 空一杯にその子の顔が広がって シクラメンの香りを聞きながら ゲーテやハイネの幾つかの 抒情詩を読んでため息をついては その失われた世界にこそぼく…

自作の小説 境界の村: 猫の村の物語  「お別れに」第三話

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 猫と一緒にゆったりと暮らしていたぼくは、ハーモニカのテストの日の夜、ショッキングな話を聴くことになった。 ぼくのうちでは土間に釜がありそこでかつては米を焚き鍋を使っていた。十畳くらいの広さで炭置…

自作の小説 境界の村で  お別れに   第二話   猫の村の物語

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ ぼくの村には整然とした猫社会の秩序があった。まず、村は猫たちにとって四つの縄張りに分かれていた。ミルは東地区の女王だった。ミルと最も頻繁に一緒にいる猫は巨大で首が太く短く、一般の猫ではまったく太…

自作の小説 境界の村  お別れに  第一話

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 境界の村 お別れに 第一話 ハーモニカのテストで不本意な失敗をしたぼくは、すっかりひねくれてしまって、授業が終わった時、自分のハーモニカで机を激しく叩いた。ぼくの中では瞬間的にすべての責任はハーモ…

自作の詩 彼女の道

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ いつの日か子供たちは思い出すだろう 夏休みに家族で海へ行き 白い雲がもくもくと水平線に湧きがるのを見たことを お母さんとおじいさんとおばあさんがいて お父さんはいなかった お父さんはその年の春に事故…

自作の小説 聖徳太子の遺書  第4話

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 発見3 石段を登って道国寺の門の前で後ろを振り返った。遠くの山々に桜が点在し、杉木立は大量の花粉を空中に振りまき、青空を背景に雲の白さがくっきりと浮かんでいた。街のざわめきもここには届かず、暖か…

自作の童話「雲の妖精の物語」 現代版「絵のない絵本」アンデルセンもどきに

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 自作の童話 雲の妖精の物語 by 海部奈尾人 1.山に登る男の物語① 私は雲の妖精です。世界中の雲の中にときどき目覚めてはあれこれ語るのが私の生き方。 昨日は月と一晩中話をするうち、切れ切れに私は消えてし…

自作の詩 沈みゆく船と共に死にゆく人々の夢    by 辻冬馬

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ その船は一気に沈没した 甲板にいたぼくは 船と一緒に海中へ引き込まれた 船が沈めばもう助かる見込みはなく こうやって甲板に座ったまま 溺れ死ぬのだなと思っていたが 息に余裕があり体力にも余裕があり こ…

自作の詩作 記念写真

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 記念写真 父母の家に昔の写真が飾られるようになった 目の前の老人が自分の配偶者であるのも何だから 互いの若い姿を見るためなのだと言う 一枚だけさらに時を越えて 今は亡き祖母と手を繋ぐ小学校一年生の母…

自作の詩 最後の風  by 海部奈尾人

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ これが最後の風であると・・・・・・ 通り過ぎて来た数多のわたしが その午後 重なり始め やがて 一つに収束する そのとき これが最後の風であると ありとあらゆるわたしが はっきりと知る 誰一人反駁すること…

自作の小説 聖徳太子の遺書  第三話

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 発見2 ぼくはリトルリーグで野球をはじめて以来、春休みも夏休みも冬休みも、野球抜きの生活をしたことがなかった。 だからその日、朝からグラウンド以外のところへ行く用事で、ごく普通のシューズを履いて、…

自作の詩 赤い灯台の歌 by 辻冬馬

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 赤い灯台の歌 あの 夕立のあとの 雨露に輝く草や葉や 若い瞳のきらめきが まっすぐな道のように 今のぼくまでのびていて ぼくはあの日の涼しい空気に いつでも自由に帰ることができる 混沌 爆発する時代 力の…

自作の小説 聖徳太子の遺書 第二話

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 聖徳太子の遺書 発見1 春休みになると、野球部の練習は新年度に向けて少しだれ気味となっていた。 レギュラー争いもほぼ終わっていた。ごくたまにスーパー1年生が入部と同時にレギュラーを取るがそんなこと…

自作の詩「彼女の夢の途中」  by 辻冬馬

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 「彼女の夢の途中」 即興詩 その夜はそんなふうに過ぎていった 出張から戻った彼女は家に帰らず あのバーでワインを飲んでいた もし彼が ドアを開けずに店が閉まれば 彼女はもうひとつの旅に出る もし彼が隣に…

連載小説  聖徳太子の遺書   2018/2/22  序

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 聖徳太子の遺書 序に変えて 球団から解雇の話をもらってから目まぐるしく時が流れた。 プロ野球の投手として、もう一花咲かせたいというぼくの希望に妻の同意を得てから、合同トライアウトへ向けてトレーニン…

自作の詩 結婚する友の肖像   詩

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 結婚する友の肖像 古荘英雄 一九九九年四月十日 もしかしたら幼い君は 積もった雪の下の 春に備える草木の営みや 成長に専念する虫たちの忍耐を 心に焼け付けはしなかっただろうか あの頃ほっつき歩いた学生街…