文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ
詩
一つの言葉が金星に乗った
あの頃、旅の夜にあとさきかまわずしゃべっていた。
別の言葉が木星にぶつかり
その人が期待通りのあいづちを打つ。深く心をくすぐる浮ついたセリフが煙のように部屋の中に漂う。
火星のあたりから加速して
会話は弾む。共有する思い出の真似事のように、別々の過去を出し合い持ち合う。夢の模造品のような未来は手付かずだから無責任にくぎを打つ。所かまわず打ちまくる。
月へ降り立った
明かりを消して窓の外を二人して眺める。本を読んでいた時は、春だった。今は初夏でエネルギーは世界を奮わせる。やがて来る秋の気配はどこにもなく今は世界はただただ青い。だがやがて来る秋にはこの光と断腸の思いで別れなければならず、やがて来る秋には冬におびえ、奇妙な音が庭に響くのを聞かねばならない。だが今は世界はただただ青く、光は永遠のように神々しく天空から海土まで輝かせる。
月の浜辺を歩きながら地球を眺める
その夜は美しいしずくを撒き散らしながら過ぎて行った。ワインを注ぎ、ピアノの一音一音がすすを払われた頭の奥の秘密の小部屋に、そっと置かれて絵に変わる。
目をつぶり
北斗七星から漏れる水滴を顔に受ける
その冷たさと言ったらなかった。この世ならぬまろやかな甘い味が、全身に広がり、そして二人は一つの水滴の中に混ざり合おうとする。柄杓から水が漏れる時刻は決まっている。天の時計はよく知る者にとって万物をとく鍵となりうる。
金星が消えていく
あれから眠って夢まできっちりとみて
喉が渇いて彼は目が覚め窓を開ける。クーラーは切れていたがヒンヤリトして部屋は静か。彼女は寝た振りをして彼を眺める。コーラをひたすらに流し込む。彼の喉が満たされた肉体の律動を見せる。それを男らしいとうっとりして彼女は眺める。
太陽がやがて神々の乱舞を
東雲に見せるだろう
全く信じられぬあでやかさで
赤と大気が混ざり合う
一日の壮大なる足場
鈴虫の音色を軽く流して
笛を吹く少年が広場に向かう
そこでは冬になると雪ウサギが飛び跳ねる。白銀の世界に煌々と輝く満月が繰り返される跳躍を照らし飽きることがない。その広場を遠方に見下ろし、夏から、冬に目をやる
星を見て地上を忘れた
それがただの逃避だと知って、かといって逃避以外に何をすることがあるだろう。重要なことなどこの世にはない。一時代に適合する程度の価値でしかない。商人が跋扈する時代など茶番もいいところ。軍人と学者が前面に出て、その一歩前に皇帝が立っている姿こそ確固とした壁画だ。それが自然体というもので、大衆の代表は夜警をするなら別だが、集会を描いても愚かしい限りだ。体調の悪さと手をつなぎ、
憂鬱な浮世の勤めにいそしむ
朝日の中に命脈を保っていた
月の光も消えた
青空が語る
かつて満天の星空であったとき
空を駆けていた言葉の数々は、今は宇宙空間の何を震わせながら、光を追いかけているだろうか。いかなる言葉が
浮き立つだろうか。ふさわしい言葉は
路地裏の薄ぼんやりとした光でしかない。だから作り出すべく、覚醒していなければならない。意識的にしゃべったり歩いたりするのが、何かにまみれながら生きる秘訣とでも、言うように、沈黙は音と音の間の期待の瞬間ごとにだけあり、はじめから何もないのとは違う。
この世界と生命の在り様と
人の思いは相容れないから
鬼子として
言葉が生まれた
天空に送ってやらねばない