【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

YouTubeチャンネル『世界の名作文学を5分で語る』のブログ版です。世界と日本の名作紹介と様々な文学批評 そして自作の詩と小説の発表の場です

2018-05-01から1ヶ月間の記事一覧

水しぶき by辻冬馬

水しぶき 真昼時 小舟に乗って 川を下りていく 空 深く 青く 透明な 心のような空 その中に吸い込まれそうな危険 誰も溶け込むことから 逃げることはできない 時おり揺れる船と 水しぶきが 彼を彼として 引き留める 天に張り付く青は巨大だが 彼もまた巨大な…

連載小説「あの夏の向こうに」最終回 第14話   by古荘 英雄

この海は三年間いつも意識の脇にあった。夕日を浴びて、真っ赤になった海と空が、柏木の胸に迫った。 麻美の家に自分の知らない女がいて、自分は特別な使者として会うのだと思うと、何だか得意げな気持ちになった。 さきほどの、主任からの思いがけないキス…

神々の帰還 by辻冬馬

再び夕暮れの赤い海の中から 船がやって来る 古代の港に神々の姿が浮かび上がる 集う人々を目にもかけず 神々は一人の男のもとへ進む 男は優雅に神々を迎える *クロードロラン 夕日の港 人々はその館を囲み やがて 詩人と神々の宴が始まる すぐに 神々は人…

自作の詩、エセー<2つの答案問答>     古荘英雄

2つの答案問答 古荘英雄 1 戦中に書かれた反体制の詩が糾弾したいのは何だったのかという問いに対して、「政府」と書いたわたしの答案に✖をして「軍」と訂正を入れた教師に、「軍」は当時の「政府」ではないかとわたしは主張した。すると屁理屈を言うなと…

連載小説「あの夏の向こうに」第13話   by古荘 英雄

小説と詩の創作と文学エセー 今日は三年間で溜まった、イレギュラーな未処理案件を、整理に来たのだった。それは、表には出せないが、社内的にも正規の処理が出来ないという類のものだった。休日に一日取る必要があった。転勤の際には必ず必要な作業だった。…

連載小説「あの夏の向こうに」第12話  by古荘 英雄 -

あの兄弟は、山が好きで二人で夏山、冬山問わず登っていた、西野はまた思い出す。長くて二泊三日で帰って来るような軽いものが多かった。学生のころは兄の方は、本格的にあちこち登ったらしいが、卒業してからは、素人の弟を連れて、気晴らし程度の散歩代わ…

連載小説「あの夏の向こうに」第11話  by古荘 英雄

小説と詩の創作と文学エセー 柏木と麻美が《校舎》に入った時、カウンターには信一がいて、何やら西野と深刻そうに話していた。 柏木は近寄りがたい雰囲気を感じて、いつものカウンターの席には着かなかった。代わりに、プラトン全集の並ぶソファーセットに…

連載小説「あの夏の向こうに」第10話  by古荘 英雄

小説と詩の創作と文学エセー ママはその夜、ラメールを開けるのはやめた。少し風邪気味で、結局開店時間になっても直らなかった。熱っぽかったし、咳も出た。しかし、ことのほか波音が聞こえる夜だったから、しばらくそれを味わってから帰ることにした。 波…