【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

YouTubeチャンネル『世界の名作文学を5分で語る』のブログ版です。世界と日本の名作紹介と様々な文学批評 そして自作の詩と小説の発表の場です

2018-04-01から1ヶ月間の記事一覧

自作の詩「季節を放浪するもの」BY 辻冬馬

創作 詩と小説 エセーと随筆 季節を放浪するもの ぼくは季節が変ると 別のところへ行き 別の人間になった 様々な場所があって 様々なものがあって 様々な人がいて それらを流れる「時」があって 去りがてには 別れの歌を歌いもした ぼくの旅は 歌が支えるや…

自作の詩「CAT キャット」古荘英雄

創作 詩と小説 エセーと随筆 1987年の詩 キャット 煙草を吸う男を見た キャット それは初めて乗る電車で そして二度と乗らない電車でのこと 京都発金沢行き 北国へ向かう数時間 ぼくは一人で夢を見たのだ キャット とある窓の内側にいて どうでもいいこ…

連載小説「あの夏の向こうに」第9話  by古荘 英雄

小説と詩の創作と文学エセー 本棚が空っぽになったら次は衣装棚の中、再び今度は服をダンボールに詰めて行く。こちらはもう詰めていくだけなので早かった。今、来ている五着のサマースーツと十枚の夏物のシャツ、それと靴下を別にして、さらに夏の私服と下着…

自作の詩「様々な風の回想」古荘英雄

創作 詩と小説 エセーと随筆 様々な風の回想 風 夏の神宮球場から 街のバーへ 失ったものについて 女友達と話す 風 彼は出発点というあやふやな場所で 冬枯れの木々を眺め ある種のコペルニクス的転回を 未来へ向けてばらまいた 風 時速160㎞の車の中で …

連載小説「あの夏の向こうに」第8話  by古荘 英雄

小説と詩の創作と文学エセー 翌朝、麻美が来るまでに家主への挨拶を済ませようと、柏木は部屋を出た。 家主の住む母屋までの二百メートルほどを、のんびりと歩いた。 スーツ姿でネクタイも締めて、ズボンのポケットに手を入れて、柏木はその道をゆっくり進ん…

自作の詩「最後の回想」古荘英雄

創作 詩と小説 エセーと随筆 最後の回想 一つの光景 古い街を歩きながら ふと自分を呼ぶ声がして振り返る そこには昔の友がいて笑っている 振り返るために首を反転させている間は 何も思わず何も見ていなかったが 後ろを向き終わり視点を定めた時 目に入る懐…

自作の詩「夢の余生」by辻冬馬

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 習作時代の詩 夢の余生 抜け出す 高みに これは誇り この存在の由来は それを許す 浜辺で 彼女の声が押し寄せ 消えて 空も海も青い ノスタルジーと明日の城が波で消される この世の全体と抱き合い それだけで …

連載小説「あの夏の向こうに」第7話  by古荘 英雄

小説と詩の創作と文学エセー 信一は水割りを飲み、煙草を吸っている。ママに水割りを作らせない。キープしたボトルに加えて、氷と水を前に置かせて自分で作るのだった。信一はまずストレートで少し飲む。それから氷を入れる。そして、氷が大分溶けた所で追加…

連載小説「あの夏の向こうに」第6話  by古荘

小説と詩の創作と文学エセー やがて、大きな信号音がピーっと鳴る。それに続いて、印字の音さえ大きく感じながら、打ち出されつつある文字を凝視する。 人事異動発令 これで皆一気に静かになる。柏木の緊張もピークに達する。話し声はなくなり、次の文字を見…

自作の詩「笛を吹く者」by 海部奈尾人

創作 詩と小説 エセーと随筆 墓地を抜ける細い道を 広場に向かう一人の少年がいた そこに漂う多くの幽霊たちが 帰り忘れた 昼間のこだまたちと遊ぶ時刻 そのゆらめく者たちが 少年の瞳に光となって映り 少年の耳の奥底では その歌声めいたざわめきが響き そ…

自作の童話 「 雲の妖精の物語 第6話」 by 海部奈尾人 - 4月 16, 2018

文学創作 小説 詩 メルヘン 童話 ポエム エセーのためのカフェ 現代版「絵のない絵本」アンデルセンもどきに 冬山に逃げた王様の物語⑤ 百人の武器を持った家来が谷底に奪った武器を放り投げていたときのことです。 そのうちの5人がこっそり武器をもったまま…

連載小説「あの夏の向こうに」第5話  by古荘

小説と詩の創作と文学エセー やっぱり変人で、嫌な仕事だと柏木は思った。今日もはぐらされたばかりか、嫌だと言うのを、無理矢理にでも払ってやろうというのに、皮肉まで言われた。この老人の保険契約は、ずっと昔にやめた職員が前妻の方と話しをつけて決め…

自作の童話 「 雲の妖精の物語 第5話」 by 海部奈尾人

文学創作 小説 詩 メルヘン 童話 ポエム エセーのためのカフェ 現代版「絵のない絵本」アンデルセンもどきに 冬山に逃げた王様の物語④ 百人の武器を持つ男たちは、王国の栗の大木を次々に切り倒していくのに夢中で、持っていた武器をみな、王様に奪われまし…

連載小説「あの夏の向こうに」第4話

小説と詩の創作と文学エセー 信一が、交通事故で足と腕の骨を折った老人の手伝いで、漁に出るようになってから半年が過ぎた。 朝、五時に起きて六時前には船を出した。皮膚に七十年分の潮が染み込んだ老人は松葉杖で必ず先に来ていた。 大通りから階段で五段…

自作の童話 「 雲の妖精の物語 第4話」 by 海部奈尾人

自作の童話「雲の妖精の物語」 現代版「絵のない絵本」アンデルセンもどきに 文学創作 小説 詩 メルヘン 童話 ポエム エセーのためのカフェ第二話 冬山に逃げた王様の物語④ 百人の武器を持った男たちは、王国の大事な大きな栗の森に入ると、自分たちが食べる…

連載小説「あの夏の向こうに」第3話

店はかつての学校の跡地にあった。一つの教室を丸ごと残し、教壇の上にはピアノが置かれ、廊下の部分が厨房であり、廊下との間の窓がカウンターだった。壁にはそこここに絵や写真が、それぞれにふさわしい額縁に収められて掛けられてあった。カウンター以外…

連載小説「あの夏の向こうに」第2話

小説と詩の創作と文学エセー 車で坂道を下って行く。山肌にぐるぐるとカーブする道が巻き付いていた。そこを、軽快にハンドルをさばきながら、さしてスピードをゆるめることもなく車を進める。 通勤前のスポーツのようなものだった。普段からがらがらの道で…

連載小説「あの夏の向こうに」第一話

小説と詩の創作 随筆 車のシートに身を沈めて、リモコンのボタンを押す。暗かった車庫の中に、滲むように、徐々に光りが入ってくる。キーを回すと、狭い空間にエンジン音が響く。シャッターが開くまでの間に、目が明るさに慣れて来る。やがて、完全に視界が…

若き日はや夢とすぎ・・・・・・

創作 詩と小説 エセーと随筆 元々ぼくには大事な友達がいた 彼らと過ごした日々は 濃い原液のようなものであり あの頃ぼくらは同じ空間や ある種の心のムードを 共有していた 北海道で彼女が流氷に言葉を失う 信州で彼が青空に郷愁を感じる そして東京にいた…

自作の詩「薄明の歌」by Amabe

創作 詩と小説 エセーと随筆 薄明の歌 小鳥が薄明に歌う 夜明けから飛び出し 曙光と呼ばれ 空の一風景に堕すまでは 現れたことそのものが畏怖をもたらし 静謐の中で 森や山や海と 空との境目あたりで燃え上がる炎は 人々を平伏させ 眼差しの奥底にまで差し込…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」最終話

小説と詩の創作 文学随筆エセー その日の夜、陽一は洋子から電話をもらった。裕也を野球に連れて行って欲しいという依頼だった。そして二日後に、裕也自身からのお礼状と野球を楽しみしているという旨のハガキを受け取ったのだった。 明日が裕也と野球観戦と…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」第8話

小説と詩の創作 文学随筆エセー 日曜日、昨夜からの不快感でたまった憂さを晴らしに、ドライブに出た。車のドアが重々しく閉まる感じが心を平静にさせる。そして、気分としてはヘリコプターを操縦するように、アクセルを踏み、ハンドルを切る。 この間、裕也…

日本武尊の恋歌 NAOTO AMABE

創作 詩と小説 エセーと随筆 古い館に入る そこで外の仲間が 消えるのを目にする あれは 道 なのか 運んでいるのは 声や視界や願い 彼らの明日が広がる 彼らをかわす時の流れ 彼らの原点が彼らの滅びへ至る道の始まり 自然消滅への流れは 真昼間時 古い館の…

自作の詩「足もとの花々」by辻冬馬

創作 詩と小説 エセーと随筆 足もとの花々 土手を裸足で歩く頃 脇に咲く黄色い花々が 新しい季節が吹きかける風に揺れ 束の間の夢を生き抜く力について 素知らぬ顔を崩しもせずに 語り続け やがて その囁きが 大気を震わせる壮大な音楽に昇華する 土手から見…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」第7話

第7話 米沢にはメールでプレゼントを届けたことだけを報告した。自分だけの思い出にしたかったのかもしれない。せめてこの土日だけは誰にも話さず余韻を噛み締めていたかったのかもしれない。陽一にとってはそういう出来事だった。 その土曜日の夜、バーボ…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」第6話

第6話 変な人だなやっぱり、と煙草に火をつけ、煙を吐き出しながら陽一は物思いに耽った。たとえ公のことでもちょっと例外を作って、自分で持っていけばいいものを。 甲斐の営業所と同じような光景があった。がらんとした空間を煌々と照らす蛍光灯。無機質…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」第5話

第5話 米沢はY高原の偶然にかこつけて電話することは、少しもおかしなことではないと思った。 Y高原のホテルで会って、個人的に言葉もろくにかけずに香山の後ろに突っ立てたことに対する謝罪と、偶然会ったことに対する感慨の言葉を今更ながらにかけるつも…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」第4話

第4話 陽一は気分よく車を出して、Y高原を後にした。ゴルフはうまくいったし、メンバーの連中の雰囲気はよかったし、言うことはなかった。山道をくねくね昇ると高速のインターがあり、そこから入ってすぐの峠のドライブインで車をとめた。ちょっと喉が渇い…

自作の詩「ある移動」習作時代

創作 詩 小説 文学随筆 ある移動 展望台にいた頃は ぼくには1年後や そのあとの季節はなかった 漠然とした鬱陶しさだけがあり それも夕暮れ時の涼しい風に飛ばされた ぼくは大事なものを 目の届くところに置き 同胞意識でつながれて 言うことはなかった 雨…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」第3話

第三話 そして五年たち、あそこにああしている。 米沢には衝撃的な再会だった。洋子に最後に会ったのは、東京駅の近くのインド料理の店だった。 洋子は都会育ちで洗練されていた。ある日、一緒に生命保険業界主催の試験を受けに行った。その帰りに高層ビルで…