創作 詩と小説 エセーと随筆
最後の回想
一つの光景
古い街を歩きながら
ふと自分を呼ぶ声がして振り返る
そこには昔の友がいて笑っている
振り返るために首を反転させている間は
何も思わず何も見ていなかったが
後ろを向き終わり視点を定めた時
目に入る懐かしさは
多くのものを思い出させる。
再会するまでの間に
30年が過ぎた
別々の人を愛し
別々の場所で暮らし
別々の道を歩いた
ぼくらにはもうやることは残っていない
そんな時に
30年前と同じように
友はぼくの肩をたたく
30年前に振り向いた時も
彼女がいたのだ
あれからあまりにも多くの登場人物たちが
目の前でつまらぬ騒ぎを起こしては消えていった
ぼくはいつも口だけ出していたが
今は一人で歩いている
彼女のまなざしは相変わらず
登場人物の輝きを持っていた
ぼくにはそもそもはじめから
なかったものが彼女らしさだ
・・・・・・・・・・
元気か
元気で何よりだ
もうすぐ死ぬだろうが
それまで元気で
・・・・・・・・
ありがとう
あなたたは死なない人みたいね
・・・・・・・・
そう見えるのは
ぼくが生きたことがないからだ
ぼくは存在しただけだったから
生きていても死んでいても同じ在り様なのだ
ただ君が死ぬのは残念でならない
この世界でぼくが目にしたもののうち
君以外には見るべきものはなかったからね
古荘英雄のその他の詩作品