【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

YouTubeチャンネル『世界の名作文学を5分で語る』のブログ版です。世界と日本の名作紹介と様々な文学批評 そして自作の詩と小説の発表の場です

2018-01-01から1年間の記事一覧

ボードレール は全世界の近代詩のたった一人の父である

ボードレールの詩をフランス語で読んだことはない。 正確に言うと、フランス語では読めない。 だからボードレールを語ることはちょっとなのだけど、だから正しくはボードレールの詩を元にその意味を日本語に移した文章から感じたことを語るのだけど、それは…

文学の裾野の広がり|大陸のように広大な芸術形式

文学の領土というと固いけど その範囲はどんなものだろうか? 文学というとざっと思いつく表現方法としてはこんな感じ。 小説 詩 戯曲 随筆 優れた日記 優れた手紙 数えたこともないが日本語で出版されている文学のカテゴリーに入る書籍は 何冊あるのだろう…

輝きというもの 

夜ふすまを開けるとそこからは異形のものたちが入ってくる それは恐怖だろうか力だろうかそれとも光なのだろうか それは明日からのものたちだろうかそれとも昨日たちの屍だろうか ふすまの向こうの夜の闇では表面に張り付いた光を肉眼で見ることができるが昼…

永遠 辻冬馬

永遠 瞳の瞬きの間に 星が死ぬ 星の瞬きの間に 人が死ぬ だから 星も人も互いを知ることはない 星も人も 次に輝くとき 次に光が入り込むとき すでに互いの命は消えている だから そんな不思議な命のことを どんなに探ろうとしても どこにもたどり着けないこ…

雲が消える  海部奈尾人

千億の心と二千億の目 この誰もが知る地から空にかけての広がりの中で あの雲が青の中でまさに消えていった 雲が視界からなくなるときは 流れ去ると思い込んでいないだろうか 雲が千切れ剥がれ消滅するのを見た人は いるだろうか? 人類の死者の総数は 1000…

浮上と飛翔の境目に見つめあう者たち 辻冬馬

浮上と飛翔の境目に見つめあう者たち ********************* ビーチボールにつかまった熊が 海中からその浮力で ゴムボートをオールを漕ぐ誰かの すぐそばに浮き上がってくる 熊は悪気なく 不思議そうな顔で オールを漕ぐ人を眺める そ…

「トルストイ随想」 文学を巡る対話集

戦争と平和 ぼくは戦争と平和を2回通読し、時々部分読み返します。 トーマスマンが折に触れて読み返していたそうです。 亡命中にも「心を支えるために」通読したなどと手紙に書いてますね。 ロマンロランも「美的」なものにたいへんな影響を受けたと。 そし…

【漢文超訳集】李白と杜甫の詩をヘッセ風に翻訳してみるとそれは素晴らしい近代的な詩に生まれ変わる

李白 牀前 月光を看る 牀前 月光を看る疑うらくは是 地上の霜かと頭を挙げて 山月を望み頭を低れて 故鄕を思う <夜の静けさの中で月を見て> 夜 人々がもう横になって今日の日に別れを告げて眠りに入ろうとする時刻 月が私のベッドを照らしていることに気づ…

「小さな花の夢の中に  叙情詩風に」 by amabe

海辺に花は似合わない 潮風が届くことのない 遠く船影を見下ろすこの場所でこそひまわりは気兼ねなく太陽と抱き合うことができるのだった でも波音の代わりに せせらぎの透き通るようなきらめきと 木々の緑のゆらぎのもとで うつらうつらする小さな花の 真昼…

「聖徳太子  夢殿で見る夢」 辻冬馬

「聖徳太子 夢殿で見る夢」 かつてはよく船が沈んだ あの長安からの荷物を運ぶ船が沈むたびに無数の教典も海の藻屑となったのだその教典の一文字一文字が束縛を解かれて海中ににじみ出て沈没船に降る雨のように光り輝く仏となって海底に沈みゆく かつてはよ…

自作の小説| 船に乗る少女 第2章

第2章 美津江は祖母の死の知らせを聞いて以来、慌しさの中にいた。 その時、美津江はPTAの集まりで中学校にいた。何度もバイブレーションを繰り返す携帯に、不審を覚えて着信を見ると、見覚えがない。しかし、家族のような図々しさで、取るまではかけ続…

自作の小説|船に乗る少女 第一章  大分県臼杵市を舞台に魂の故郷を発見する物語

船にのる少女 第一章 祖母の葬儀が終わった翌朝、美津江は中学生になる娘の美香から、この洋間のない古い家でお膳を囲んで食事をするのが、結構暖かくて好きだと言われた時、確かに昔この家の食卓に自分も同じことを感じていたのだと、かすかに頷いた。 * …

水しぶき by辻冬馬

水しぶき 真昼時 小舟に乗って 川を下りていく 空 深く 青く 透明な 心のような空 その中に吸い込まれそうな危険 誰も溶け込むことから 逃げることはできない 時おり揺れる船と 水しぶきが 彼を彼として 引き留める 天に張り付く青は巨大だが 彼もまた巨大な…

連載小説「あの夏の向こうに」最終回 第14話   by古荘 英雄

この海は三年間いつも意識の脇にあった。夕日を浴びて、真っ赤になった海と空が、柏木の胸に迫った。 麻美の家に自分の知らない女がいて、自分は特別な使者として会うのだと思うと、何だか得意げな気持ちになった。 さきほどの、主任からの思いがけないキス…

神々の帰還 by辻冬馬

再び夕暮れの赤い海の中から 船がやって来る 古代の港に神々の姿が浮かび上がる 集う人々を目にもかけず 神々は一人の男のもとへ進む 男は優雅に神々を迎える *クロードロラン 夕日の港 人々はその館を囲み やがて 詩人と神々の宴が始まる すぐに 神々は人…

自作の詩、エセー<2つの答案問答>     古荘英雄

2つの答案問答 古荘英雄 1 戦中に書かれた反体制の詩が糾弾したいのは何だったのかという問いに対して、「政府」と書いたわたしの答案に✖をして「軍」と訂正を入れた教師に、「軍」は当時の「政府」ではないかとわたしは主張した。すると屁理屈を言うなと…

連載小説「あの夏の向こうに」第13話   by古荘 英雄

小説と詩の創作と文学エセー 今日は三年間で溜まった、イレギュラーな未処理案件を、整理に来たのだった。それは、表には出せないが、社内的にも正規の処理が出来ないという類のものだった。休日に一日取る必要があった。転勤の際には必ず必要な作業だった。…

連載小説「あの夏の向こうに」第12話  by古荘 英雄 -

あの兄弟は、山が好きで二人で夏山、冬山問わず登っていた、西野はまた思い出す。長くて二泊三日で帰って来るような軽いものが多かった。学生のころは兄の方は、本格的にあちこち登ったらしいが、卒業してからは、素人の弟を連れて、気晴らし程度の散歩代わ…

連載小説「あの夏の向こうに」第11話  by古荘 英雄

小説と詩の創作と文学エセー 柏木と麻美が《校舎》に入った時、カウンターには信一がいて、何やら西野と深刻そうに話していた。 柏木は近寄りがたい雰囲気を感じて、いつものカウンターの席には着かなかった。代わりに、プラトン全集の並ぶソファーセットに…

連載小説「あの夏の向こうに」第10話  by古荘 英雄

小説と詩の創作と文学エセー ママはその夜、ラメールを開けるのはやめた。少し風邪気味で、結局開店時間になっても直らなかった。熱っぽかったし、咳も出た。しかし、ことのほか波音が聞こえる夜だったから、しばらくそれを味わってから帰ることにした。 波…

自作の詩「季節を放浪するもの」BY 辻冬馬

創作 詩と小説 エセーと随筆 季節を放浪するもの ぼくは季節が変ると 別のところへ行き 別の人間になった 様々な場所があって 様々なものがあって 様々な人がいて それらを流れる「時」があって 去りがてには 別れの歌を歌いもした ぼくの旅は 歌が支えるや…

自作の詩「CAT キャット」古荘英雄

創作 詩と小説 エセーと随筆 1987年の詩 キャット 煙草を吸う男を見た キャット それは初めて乗る電車で そして二度と乗らない電車でのこと 京都発金沢行き 北国へ向かう数時間 ぼくは一人で夢を見たのだ キャット とある窓の内側にいて どうでもいいこ…

連載小説「あの夏の向こうに」第9話  by古荘 英雄

小説と詩の創作と文学エセー 本棚が空っぽになったら次は衣装棚の中、再び今度は服をダンボールに詰めて行く。こちらはもう詰めていくだけなので早かった。今、来ている五着のサマースーツと十枚の夏物のシャツ、それと靴下を別にして、さらに夏の私服と下着…

自作の詩「様々な風の回想」古荘英雄

創作 詩と小説 エセーと随筆 様々な風の回想 風 夏の神宮球場から 街のバーへ 失ったものについて 女友達と話す 風 彼は出発点というあやふやな場所で 冬枯れの木々を眺め ある種のコペルニクス的転回を 未来へ向けてばらまいた 風 時速160㎞の車の中で …

連載小説「あの夏の向こうに」第8話  by古荘 英雄

小説と詩の創作と文学エセー 翌朝、麻美が来るまでに家主への挨拶を済ませようと、柏木は部屋を出た。 家主の住む母屋までの二百メートルほどを、のんびりと歩いた。 スーツ姿でネクタイも締めて、ズボンのポケットに手を入れて、柏木はその道をゆっくり進ん…

自作の詩「最後の回想」古荘英雄

創作 詩と小説 エセーと随筆 最後の回想 一つの光景 古い街を歩きながら ふと自分を呼ぶ声がして振り返る そこには昔の友がいて笑っている 振り返るために首を反転させている間は 何も思わず何も見ていなかったが 後ろを向き終わり視点を定めた時 目に入る懐…

自作の詩「夢の余生」by辻冬馬

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 習作時代の詩 夢の余生 抜け出す 高みに これは誇り この存在の由来は それを許す 浜辺で 彼女の声が押し寄せ 消えて 空も海も青い ノスタルジーと明日の城が波で消される この世の全体と抱き合い それだけで …

連載小説「あの夏の向こうに」第7話  by古荘 英雄

小説と詩の創作と文学エセー 信一は水割りを飲み、煙草を吸っている。ママに水割りを作らせない。キープしたボトルに加えて、氷と水を前に置かせて自分で作るのだった。信一はまずストレートで少し飲む。それから氷を入れる。そして、氷が大分溶けた所で追加…

連載小説「あの夏の向こうに」第6話  by古荘

小説と詩の創作と文学エセー やがて、大きな信号音がピーっと鳴る。それに続いて、印字の音さえ大きく感じながら、打ち出されつつある文字を凝視する。 人事異動発令 これで皆一気に静かになる。柏木の緊張もピークに達する。話し声はなくなり、次の文字を見…

自作の詩「笛を吹く者」by 海部奈尾人

創作 詩と小説 エセーと随筆 墓地を抜ける細い道を 広場に向かう一人の少年がいた そこに漂う多くの幽霊たちが 帰り忘れた 昼間のこだまたちと遊ぶ時刻 そのゆらめく者たちが 少年の瞳に光となって映り 少年の耳の奥底では その歌声めいたざわめきが響き そ…