【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

YouTubeチャンネル『世界の名作文学を5分で語る』のブログ版です。世界と日本の名作紹介と様々な文学批評 そして自作の詩と小説の発表の場です

2018-01-01から1年間の記事一覧

自作の童話 「 雲の妖精の物語 第6話」 by 海部奈尾人 - 4月 16, 2018

文学創作 小説 詩 メルヘン 童話 ポエム エセーのためのカフェ 現代版「絵のない絵本」アンデルセンもどきに 冬山に逃げた王様の物語⑤ 百人の武器を持った家来が谷底に奪った武器を放り投げていたときのことです。 そのうちの5人がこっそり武器をもったまま…

連載小説「あの夏の向こうに」第5話  by古荘

小説と詩の創作と文学エセー やっぱり変人で、嫌な仕事だと柏木は思った。今日もはぐらされたばかりか、嫌だと言うのを、無理矢理にでも払ってやろうというのに、皮肉まで言われた。この老人の保険契約は、ずっと昔にやめた職員が前妻の方と話しをつけて決め…

自作の童話 「 雲の妖精の物語 第5話」 by 海部奈尾人

文学創作 小説 詩 メルヘン 童話 ポエム エセーのためのカフェ 現代版「絵のない絵本」アンデルセンもどきに 冬山に逃げた王様の物語④ 百人の武器を持つ男たちは、王国の栗の大木を次々に切り倒していくのに夢中で、持っていた武器をみな、王様に奪われまし…

連載小説「あの夏の向こうに」第4話

小説と詩の創作と文学エセー 信一が、交通事故で足と腕の骨を折った老人の手伝いで、漁に出るようになってから半年が過ぎた。 朝、五時に起きて六時前には船を出した。皮膚に七十年分の潮が染み込んだ老人は松葉杖で必ず先に来ていた。 大通りから階段で五段…

自作の童話 「 雲の妖精の物語 第4話」 by 海部奈尾人

自作の童話「雲の妖精の物語」 現代版「絵のない絵本」アンデルセンもどきに 文学創作 小説 詩 メルヘン 童話 ポエム エセーのためのカフェ第二話 冬山に逃げた王様の物語④ 百人の武器を持った男たちは、王国の大事な大きな栗の森に入ると、自分たちが食べる…

連載小説「あの夏の向こうに」第3話

店はかつての学校の跡地にあった。一つの教室を丸ごと残し、教壇の上にはピアノが置かれ、廊下の部分が厨房であり、廊下との間の窓がカウンターだった。壁にはそこここに絵や写真が、それぞれにふさわしい額縁に収められて掛けられてあった。カウンター以外…

連載小説「あの夏の向こうに」第2話

小説と詩の創作と文学エセー 車で坂道を下って行く。山肌にぐるぐるとカーブする道が巻き付いていた。そこを、軽快にハンドルをさばきながら、さしてスピードをゆるめることもなく車を進める。 通勤前のスポーツのようなものだった。普段からがらがらの道で…

連載小説「あの夏の向こうに」第一話

小説と詩の創作 随筆 車のシートに身を沈めて、リモコンのボタンを押す。暗かった車庫の中に、滲むように、徐々に光りが入ってくる。キーを回すと、狭い空間にエンジン音が響く。シャッターが開くまでの間に、目が明るさに慣れて来る。やがて、完全に視界が…

若き日はや夢とすぎ・・・・・・

創作 詩と小説 エセーと随筆 元々ぼくには大事な友達がいた 彼らと過ごした日々は 濃い原液のようなものであり あの頃ぼくらは同じ空間や ある種の心のムードを 共有していた 北海道で彼女が流氷に言葉を失う 信州で彼が青空に郷愁を感じる そして東京にいた…

自作の詩「薄明の歌」by Amabe

創作 詩と小説 エセーと随筆 薄明の歌 小鳥が薄明に歌う 夜明けから飛び出し 曙光と呼ばれ 空の一風景に堕すまでは 現れたことそのものが畏怖をもたらし 静謐の中で 森や山や海と 空との境目あたりで燃え上がる炎は 人々を平伏させ 眼差しの奥底にまで差し込…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」最終話

小説と詩の創作 文学随筆エセー その日の夜、陽一は洋子から電話をもらった。裕也を野球に連れて行って欲しいという依頼だった。そして二日後に、裕也自身からのお礼状と野球を楽しみしているという旨のハガキを受け取ったのだった。 明日が裕也と野球観戦と…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」第8話

小説と詩の創作 文学随筆エセー 日曜日、昨夜からの不快感でたまった憂さを晴らしに、ドライブに出た。車のドアが重々しく閉まる感じが心を平静にさせる。そして、気分としてはヘリコプターを操縦するように、アクセルを踏み、ハンドルを切る。 この間、裕也…

日本武尊の恋歌 NAOTO AMABE

創作 詩と小説 エセーと随筆 古い館に入る そこで外の仲間が 消えるのを目にする あれは 道 なのか 運んでいるのは 声や視界や願い 彼らの明日が広がる 彼らをかわす時の流れ 彼らの原点が彼らの滅びへ至る道の始まり 自然消滅への流れは 真昼間時 古い館の…

自作の詩「足もとの花々」by辻冬馬

創作 詩と小説 エセーと随筆 足もとの花々 土手を裸足で歩く頃 脇に咲く黄色い花々が 新しい季節が吹きかける風に揺れ 束の間の夢を生き抜く力について 素知らぬ顔を崩しもせずに 語り続け やがて その囁きが 大気を震わせる壮大な音楽に昇華する 土手から見…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」第7話

第7話 米沢にはメールでプレゼントを届けたことだけを報告した。自分だけの思い出にしたかったのかもしれない。せめてこの土日だけは誰にも話さず余韻を噛み締めていたかったのかもしれない。陽一にとってはそういう出来事だった。 その土曜日の夜、バーボ…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」第6話

第6話 変な人だなやっぱり、と煙草に火をつけ、煙を吐き出しながら陽一は物思いに耽った。たとえ公のことでもちょっと例外を作って、自分で持っていけばいいものを。 甲斐の営業所と同じような光景があった。がらんとした空間を煌々と照らす蛍光灯。無機質…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」第5話

第5話 米沢はY高原の偶然にかこつけて電話することは、少しもおかしなことではないと思った。 Y高原のホテルで会って、個人的に言葉もろくにかけずに香山の後ろに突っ立てたことに対する謝罪と、偶然会ったことに対する感慨の言葉を今更ながらにかけるつも…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」第4話

第4話 陽一は気分よく車を出して、Y高原を後にした。ゴルフはうまくいったし、メンバーの連中の雰囲気はよかったし、言うことはなかった。山道をくねくね昇ると高速のインターがあり、そこから入ってすぐの峠のドライブインで車をとめた。ちょっと喉が渇い…

自作の詩「ある移動」習作時代

創作 詩 小説 文学随筆 ある移動 展望台にいた頃は ぼくには1年後や そのあとの季節はなかった 漠然とした鬱陶しさだけがあり それも夕暮れ時の涼しい風に飛ばされた ぼくは大事なものを 目の届くところに置き 同胞意識でつながれて 言うことはなかった 雨…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」第3話

第三話 そして五年たち、あそこにああしている。 米沢には衝撃的な再会だった。洋子に最後に会ったのは、東京駅の近くのインド料理の店だった。 洋子は都会育ちで洗練されていた。ある日、一緒に生命保険業界主催の試験を受けに行った。その帰りに高層ビルで…

自作の小説「ひと吹きの風が語るもの」第二話

小説と詩と文学随筆と 第二話 「パパは病気で・・・?」 「交通事故で死んだんだ。ぼくが五歳の時だったらしい。パパのことはほとんど覚えてない。パパってどんな人だったってママに聞くと、一人きりでいる時にパパに呼びかけると、こたえてくれるから自分で…

自作の小説 「ひと吹きの風が語るもの」 第一話

小説と詩と文学と 陽一は一人散歩に出た。大勢で泊まったりする時は、自分だけの時間を持つために必ず皆より一時間くらい早く起きるようにしていた。今では体の方が意識していて、勝手に目が覚める。ジャージにティーシャツでスニーカーを履いて出発した。 …

1987年7月7日のスケジュール  第三話以降全編

創作 詩と小説 文学エセーと随筆 そろそろ風呂に湯が貯まる頃だと上がった。 もう少し時間がかかりそうだったので、その間に最低限の食べ物を口にする。平日の夕食は簡素だ。ビールでおにぎり二個を流し込み、生野菜を齧る。納豆をそのままで食べる。ビール…

自作の小説:「1987年7月7日のスケジュール」  第2話

創作 詩と小説 文学随筆とエセー サッシを開けて、空気を入れ替える。空気は生暖かく、湿気でじとじとしていてが、角部屋の私の部屋は結構風の通りは良く、どうにか凌げるのだった。雨音はかなり響く。この季節には涼やかな音色とはとても言えず、逆に鬱陶し…

1987年7月7日のスケジュール  第一話

創作 詩と小説 文学随筆とエセー 船橋から千葉の奥の方へ三十分も電車に乗れば、北習志野駅へ到着する。この辺りの通勤時間としては平均的であるが、ものすごく遠く感じてしまう。 駅を出ると線路に平行して長い直線の道があり、それは駅の構内の一部のよう…

自作の小説「祖父の時計第六話 」 猫の村の物語

そして右側には海が広がる。一年を通じて、その青は山の変化する様々な色合いを際立たせつつ、時には鉛色にうねり、時には寒気の中一面に水蒸気が上がったりもした。わたしはこの海が好きだった。この海は世界のどこかを航海中の父と、直接つながっていた。…

自作の童話 「 雲の妖精の物語 第3話」 by 海部奈尾人

前回の話 冬山に逃げた王様の物語③ 百人の武器を持った男たちは王様に言われて森の中に自分たちの食べ物を探しに行きました。 怖そうな男たちのわがままをぴしゃりと押さえた王様を見て、村の人たちはやっぱり王様はすごいなあと関心していました。 100人…

自作の小説「祖父の時計 第5話」境界の村シリーズ - 3月 24

遠洋航路の船乗りだった父は、三、四ヵ月に一週間くらいの割合で家に帰って来た。日常的には父の存在はまったくなく、幼いわたしと姉にとっては、その帰宅は祭り以上にめでたく、何にも増して待ちわびているものであった。 祖父は父親代わりにいろいろなこと…

自作の小説「祖父の時計 第4話」境界の村シリーズ - 3月 22, 2018

火葬場から家に戻って、これで一通りの死の儀式が終わったので、親戚の多くは自分の家に帰る用意をした。そして、祖父の生前の愛用品の中から、祖母が要らないといったものを、おじやおばたちが形見分けと称して、帰り支度のバッグに入れていた時だった。大…

自作の詩「ぼくが待っているもの」by辻冬馬

詩 ぼくはいつも待っている 母さんが晩御飯で 大好きなシチューを作ってくれるのを 兄さんがいつのまにか飽きてしまった ゲームソフトをぼくにくれるのを ぼくは毎日学校で 授業が終わるのを待っている 放課後になるのを待っている ぼくはいつも待っている …