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現代版「絵のない絵本」アンデルセンもどきに
冬山に逃げた王様の物語④
百人の武器を持つ男たちは、王国の栗の大木を次々に切り倒していくのに夢中で、持っていた武器をみな、王様に奪われました。
そして王様に武器を返せと文句を言ってきたのですが、百人の武器をもたない男たちは、百人の武器をもつ家来に取り囲まれて、文句も言えなくなってしまいました。
「きみたちは王国の大事な栗の木を伐りたおした。だから大事な武器をもらった」
王様はにこやかに言いました。
「きみたちはこのままこの国から出ていくといい」
百人の武器をもたない男たちは、やむなくそのまま国を出ていきました。
王国の人たちはほっとして
「王様万歳」と何度も繰り返しました。
実はこの栗林とこの大きな湖と、すぐそばにあるきれいな海と大きな川のおかげで、王国はとても豊かでした。だからいろんな人が王国にやってきては、無理難題をいってきたりもしていました。
そのたびに王様は血を流すことなく、見事な智慧で解決していました。だからみんなは王様が大好きでした。
私、雲の妖精もそんな王様を見るのが大好きでした。
ところでその夜のことでした。
武器をもった百人の家来たちは、王様の言いつけ通りに武器を谷底に捨てに行きました。怖い武器は見たくもないというのが王様の考えでしたから、家来たちも当然そう思っていたのです。
みんなはおもしろがって槍や剣や弓矢を谷底に捨てていきました。王国の谷にはドラゴンが住むともいわれていたのですが、とにかく深い深い谷でしたから、捨てたら二度と武器は人目につかないはずでした。
でもどんな素敵な国にも、よこしまな心は生まれるという悲しい事実を、私はその夜、月の光の中で見ることになりました。