【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

YouTubeチャンネル『世界の名作文学を5分で語る』のブログ版です。世界と日本の名作紹介と様々な文学批評 そして自作の詩と小説の発表の場です

2018-03-01から1ヶ月間の記事一覧

自作の小説 「ひと吹きの風が語るもの」 第一話

小説と詩と文学と 陽一は一人散歩に出た。大勢で泊まったりする時は、自分だけの時間を持つために必ず皆より一時間くらい早く起きるようにしていた。今では体の方が意識していて、勝手に目が覚める。ジャージにティーシャツでスニーカーを履いて出発した。 …

1987年7月7日のスケジュール  第三話以降全編

創作 詩と小説 文学エセーと随筆 そろそろ風呂に湯が貯まる頃だと上がった。 もう少し時間がかかりそうだったので、その間に最低限の食べ物を口にする。平日の夕食は簡素だ。ビールでおにぎり二個を流し込み、生野菜を齧る。納豆をそのままで食べる。ビール…

自作の小説:「1987年7月7日のスケジュール」  第2話

創作 詩と小説 文学随筆とエセー サッシを開けて、空気を入れ替える。空気は生暖かく、湿気でじとじとしていてが、角部屋の私の部屋は結構風の通りは良く、どうにか凌げるのだった。雨音はかなり響く。この季節には涼やかな音色とはとても言えず、逆に鬱陶し…

1987年7月7日のスケジュール  第一話

創作 詩と小説 文学随筆とエセー 船橋から千葉の奥の方へ三十分も電車に乗れば、北習志野駅へ到着する。この辺りの通勤時間としては平均的であるが、ものすごく遠く感じてしまう。 駅を出ると線路に平行して長い直線の道があり、それは駅の構内の一部のよう…

自作の小説「祖父の時計第六話 」 猫の村の物語

そして右側には海が広がる。一年を通じて、その青は山の変化する様々な色合いを際立たせつつ、時には鉛色にうねり、時には寒気の中一面に水蒸気が上がったりもした。わたしはこの海が好きだった。この海は世界のどこかを航海中の父と、直接つながっていた。…

自作の童話 「 雲の妖精の物語 第3話」 by 海部奈尾人

前回の話 冬山に逃げた王様の物語③ 百人の武器を持った男たちは王様に言われて森の中に自分たちの食べ物を探しに行きました。 怖そうな男たちのわがままをぴしゃりと押さえた王様を見て、村の人たちはやっぱり王様はすごいなあと関心していました。 100人…

自作の小説「祖父の時計 第5話」境界の村シリーズ - 3月 24

遠洋航路の船乗りだった父は、三、四ヵ月に一週間くらいの割合で家に帰って来た。日常的には父の存在はまったくなく、幼いわたしと姉にとっては、その帰宅は祭り以上にめでたく、何にも増して待ちわびているものであった。 祖父は父親代わりにいろいろなこと…

自作の小説「祖父の時計 第4話」境界の村シリーズ - 3月 22, 2018

火葬場から家に戻って、これで一通りの死の儀式が終わったので、親戚の多くは自分の家に帰る用意をした。そして、祖父の生前の愛用品の中から、祖母が要らないといったものを、おじやおばたちが形見分けと称して、帰り支度のバッグに入れていた時だった。大…

自作の詩「ぼくが待っているもの」by辻冬馬

詩 ぼくはいつも待っている 母さんが晩御飯で 大好きなシチューを作ってくれるのを 兄さんがいつのまにか飽きてしまった ゲームソフトをぼくにくれるのを ぼくは毎日学校で 授業が終わるのを待っている 放課後になるのを待っている ぼくはいつも待っている …

自作の童話 「 雲の妖精の物語 第二話」 by 海部奈尾人

文学創作 小説 詩 メルヘン 童話 ポエム エセーのためのカフェ 私は雲の妖精です。 世界中の雲の中にときどき目覚めてはあれこれ語るのが私の生き方。 昨日は月と一晩中話をするうち、切れ切れに私は消えてしまったのですけど・・・・ 今夜は眠れずに窓から…

自作の小説「祖父の時計 第3話」境界の村シリーズ

やがて、わたしは母に連れられて外に出た。その日は曇っていたが、祖父が燃えている間は、不思議と日が射していた。どんなに雨が降っていても、火葬の間は止むのだと聞いたことがあった。その天の配慮のような現象に心を打たれた。 母は、煙突から立ち上る煙…

自作の詩 始原の足跡  by辻冬馬

詩 始原の足跡 それは道だったのだろうか 百万年前の アフリカの大地に残る親子三(人)の足跡 それは生活というものの痕跡だったのか 誕生間もない新種の サル科類人目ヒト種の(決してヒト科ではない) 餌探しの途中の偶然の一歩だったのか それともそれは…

自作の小説「祖父の時計 第2話」境界の村シリーズ

翌日、祖父の遺体は神妙な手つきで裸にされて、全身を湯で洗われ、髪や髭を剃られ、爪もきれいに切りそろえられた。あの世への旅立ちなので、身なりを整えるのだという話にわたしは妙に納得した。それらの儀式の一連の流れは、あの世が存在するという大いな…

自作の小説「祖父の時計 第一話」境界の村シリーズ

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 祖父の時計 母方の祖父は村で一番貧しい家に生まれて、七十八年後に最も裕福な人間として死んだ。 わたしが小学校に入学して間もない頃、祖父は入院した。治らない病気にかかってしまったので、病院からもう生…

自作の詩「風の終点のその向こう側」by辻冬馬

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 風の終点のその向こう側 蝶々が風と別れて 海を前に羽を休める そこでまどろみから覚めて 海に去る者たちへ 別れの言葉をかけていた 数え切れないほどの何かが 海に散った 何もかもが 当たり前のように消えて…

自作の小説 「お別れに第8話最終回」:猫の村の物語

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 最後の日が来た。 その朝、ミルはいなかった。ミルはいつも母の枕元に寝そべり、母が起きたら一緒に起き上がり、母について階段を下りて行き、餌をもらうという習慣だった。ただ時々はボス猫に呼ばれて広場に…

自作の詩 風の終点  by 辻冬馬

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 風の終点 蝶々が風の化身のように 陽光の中を ふわふわと流れ 大気の海の底で夢を見る 消えて行く風の囁き・・・ 蝋燭の火を吹き消すほどもないけれど 確かに作られた羽の動き すると次には周囲から坂を下るよ…

自作の小説【お別れに:第7話】境界の村:猫の村の物語

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 引っ越しの日が間近に迫っていた。 その午後、ぼくらは堤防で寝転がっていた。 亜季は起き上がって「気持ちいいね」とぼくに語りかけてくれる。 「うん、いろんなことがたくさん想像できるんだ。こうやって雲…

自作の詩 酒と酒の狭間で  by 海部奈尾人

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ その男は未来に向かって突進できず 夜の奥地で飲んだくれていた 酒の中にずんずん分け入っていけば その深みは日々の様々な困難から わずかの隙間でしばしの間守ってくれる だが輸血しているようなもので それ…

自作の小説 お別れに第6話 境界の村:猫の村の物語

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 学校では亜季のおかげでホームルームの時間にミルをどうするかを話し合ってもらえた。そのこと自体は嬉しかった。みんなユニークな意見をどんどん言った。しかしユニークなだけで現実的に決定的な方法は何もな…

自作の小説 境界の村:猫の村の物語  お別れに  第5話

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 海の光景を見下ろす二人・・・・・ 承前 それらすべてが午後の輝きの中に浮かんでいた。亜季の姿の背景に浮かんでいた。亜季がそこにいたからこそ覚えている景色だった。ぼくの村から見る海とはやや違う、人々…

自作の詩 星を巡る言葉   by  海部奈尾人

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 詩 一つの言葉が金星に乗った あの頃、旅の夜にあとさきかまわずしゃべっていた。 別の言葉が木星にぶつかり その人が期待通りのあいづちを打つ。深く心をくすぐる浮ついたセリフが煙のように部屋の中に漂う。…

自作の小説 境界の村:猫の村の物語  お別れに  第4話

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 一週間ほどして。ぼくは兄の部屋に呼ばれた。野口五郎が野口五郎岳に上る写真のポスターが貼られていた。ステレオはフル稼働で、その頃はいつもデビューしたての荒井由美か、吉田卓郎か井上陽水の歌がかかって…

自作の詩 シクラメンの香りの向こうに  by  辻冬馬

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ その頃好きだった女の子に もう二度と会えなくなったので 空一杯にその子の顔が広がって シクラメンの香りを聞きながら ゲーテやハイネの幾つかの 抒情詩を読んでため息をついては その失われた世界にこそぼく…

自作の小説 境界の村: 猫の村の物語  「お別れに」第三話

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 猫と一緒にゆったりと暮らしていたぼくは、ハーモニカのテストの日の夜、ショッキングな話を聴くことになった。 ぼくのうちでは土間に釜がありそこでかつては米を焚き鍋を使っていた。十畳くらいの広さで炭置…

自作の小説 境界の村で  お別れに   第二話   猫の村の物語

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ ぼくの村には整然とした猫社会の秩序があった。まず、村は猫たちにとって四つの縄張りに分かれていた。ミルは東地区の女王だった。ミルと最も頻繁に一緒にいる猫は巨大で首が太く短く、一般の猫ではまったく太…

自作の小説 境界の村  お別れに  第一話

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 境界の村 お別れに 第一話 ハーモニカのテストで不本意な失敗をしたぼくは、すっかりひねくれてしまって、授業が終わった時、自分のハーモニカで机を激しく叩いた。ぼくの中では瞬間的にすべての責任はハーモ…

自作の詩 彼女の道

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ いつの日か子供たちは思い出すだろう 夏休みに家族で海へ行き 白い雲がもくもくと水平線に湧きがるのを見たことを お母さんとおじいさんとおばあさんがいて お父さんはいなかった お父さんはその年の春に事故…

自作の小説 聖徳太子の遺書  第4話

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 発見3 石段を登って道国寺の門の前で後ろを振り返った。遠くの山々に桜が点在し、杉木立は大量の花粉を空中に振りまき、青空を背景に雲の白さがくっきりと浮かんでいた。街のざわめきもここには届かず、暖か…

自作の童話「雲の妖精の物語」 現代版「絵のない絵本」アンデルセンもどきに

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 自作の童話 雲の妖精の物語 by 海部奈尾人 1.山に登る男の物語① 私は雲の妖精です。世界中の雲の中にときどき目覚めてはあれこれ語るのが私の生き方。 昨日は月と一晩中話をするうち、切れ切れに私は消えてし…