【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

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自作の小説 境界の村で  お別れに   第二話   猫の村の物語

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 ぼくの村には整然とした猫社会の秩序があった。まず、村は猫たちにとって四つの縄張りに分かれていた。ミルは東地区の女王だった。ミルと最も頻繁に一緒にいる猫は巨大で首が太く短く、一般の猫ではまったく太刀打ちできず、犬に会っても悠然としていた。ミルが何回か産んだ子猫たちもたいていはその猫の子どものようであった。

 首の太く短い猫、ぼくらは通称どす猫と呼んでいたが、それはミルの相棒の東地区のボスだけではなかった。西地区、北地区、南地区、それぞれのボスはどす猫だった。そして、ぼくはミルを中心に猫社会を見ていたから、東地区の猫は実に良く知っていたが、その他の地区はよくわからず、それだけにどす猫たちは目立ってしまい、何故あの手の猫はボス以外にいないのか不思議だった。

 一度など、ある朝ぼくが玄関の戸を開けるとそこに東西南北のどす猫がそろっていた。おまけに見たこともないどす猫も二匹いた。皆ふてぶてしくのっそりとゆったりと座っていた。隣の村のボス猫が何か猫族の大事な用事で会合に来たのだと思った。そしてそれはうちのミルと今年は誰が結婚するか、というテーマに違いないとぼくは思った。ミルとはそれほど魅惑的な女性だったのだ。

 ぼくの村は猫達にとって天国だったのではないかと思う。

 ただ、人間以外の動物の大変さもわかっているつもりだった。猫たちは時々犬に追われて必死に逃げるし、子猫は命がけで隠れる。犬から逃れた子猫が烏にくわえられてさらわれる光景も見た。また母一人子猫4匹で幸せに暮らしている所に別の雄猫が現れ、オスの子猫を殺すシーンにも遭遇した。犬も犬狩に追われて保険所で殺されるし、犬も猫も飼い主から子どもを取り上げられ、子どもは箱に乗せられ海に流されたりした。

また一方でアフリカの動物の数々のエピソードも聞いていた。巣のある木が切り倒され、一家丸ごと地面に叩きつけられて死ぬサルたち、旱魃で水がなくなり、別の水場に着いたと思ったら、そこも水がなく倒れこむ象やサイ。

 動物はいつも生と死の境目で生きている。人間は死に対して安全だと幼いぼくは考えていたと思う。しかし、死の縁は無量なり、という言葉を近所のばあさんから教えてもらった時、様々に漠然とした考えが一瞬のうちに形となった。

 よく道端に犬や猫や烏の死体が転がっていたが、人間の死体がころがっていなかっただけの違いだったのだ。人間の場合、例えば性欲が恋愛感情に、母性本能が母の無償の愛に昇華するように、死もあの世への移行、という概念に昇華していた。毎月のように葬式がすぐそばの寺で行われ、それは皆知っている老人で、次に誰が死ぬかも子どもでも知っていたし、来年あたりは誰が死ぬかもミルでも知っていたに違いない。

 ミルの天敵の一人は、子供社会の噂話の中で来年の死者の予定リストに名を連ねている隣のおばあさんだった。おばあさんは一人暮らしで、大阪に一人息子がいたが、離婚しておばあさんの大好きだった二人の孫には、おばあさんは会えなかった。

 おばあさんは暗く病気がちで、だいたい一日寝こんでいて、朝と夜のご飯時だけ、親戚の持ってくる食事をとるために起き上がった。ミルの姿を見るとこの世のすべてのかわいらしいもの、ほのぼのとするものを敵とする、という感じで怒鳴りながら何かを投げつける。ミルはびっくりするわけではないが、しょうがないねえ、という風におばあさんから離れる。しかし、不思議なことに全くおばあさんの家に寄り付かなくなることはなかった。

 



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