創作 詩 小説 文学随筆
ある移動
展望台にいた頃は
ぼくには1年後や
そのあとの季節はなかった
漠然とした鬱陶しさだけがあり
それも夕暮れ時の涼しい風に飛ばされた
ぼくは大事なものを
目の届くところに置き
同胞意識でつながれて
言うことはなかった
雨の中の移動中
様々な会話
「やあ きみ
ぼくのことを
知り尽くしてしまったきみ
きみのおかげでぼくの額には
不吉な星が浮かび上がる
いっそのこと
ぼくはもういないと言いたいくらいだ
なんてことだ
なんてことだ
何てことだ でも
まあ
未来じゃないけど
きみはどう行こうと
ぼくを消し
ぼくにまつわるぜい肉をそぎ落とす
何事もあの日の
展望台の風にまさるものはない
最高の風と人格
すべてはそこで語られた
今
銃後から最前線のきみへ
失われた言葉を
送る」