創作 詩と小説 エセーと随筆
薄明の歌
小鳥が薄明に歌う
夜明けから飛び出し
曙光と呼ばれ
空の一風景に堕すまでは
現れたことそのものが畏怖をもたらし
静謐の中で
森や山や海と
空との境目あたりで燃え上がる炎は
人々を平伏させ
眼差しの奥底にまで差し込み続ける
出現そのものが崇められ
何が燃えているかは問題ではなく
やがて登り切るとただの太陽であり
もはや神でなく
あの燃え上がる火の玉と
あそこに浮かぶ太陽は同じ一つのものと
わかっていながらなお
それは全く別の在り様であり
もはや全く別のものであるのだった
小鳥が薄明に飛び立つ
そのあとの物悲しさは
残された風景にによって語られる
だからふと見上げれば
去ったということそのものが
薄明の枯れ枝として
いつまでも
いつまでも揺れているのであった
そしてその振幅は
立ち去った鳥の
はばたきのエネルギーの
別の在り様であり
だからといって悲しみが
失われた命の
別の在り様であり
在りし日の笑顔や泣き声の
別のあり様であり
切り取られたかのように消えた未来の
別のあり様であると
わかっていたとしても
やはりそれは
曙光と上り切った太陽との違いのように
まったく違うなにものかであった
が
いつの日か転移したエネルギーが
またさらに別のものを生み出し
その時には悲しみは
悲しみそのものでありながら
在りし日も彼岸も飛び越え
不思議な配剤の末に巡り巡って
闇の奥からこの世ならぬ音を立てながら
曙光となって飛び出して来るだろう
小鳥が飛ぶ
在りし日
最後に見た光が
嬉しさに変わり
その嬉しさは
何に変わることもなく行き場を失ったから
それをくちばしで捕まえて
この世の渦の上に
そっと落としてやるのだ
ブログ内の海部の詩