【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

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自作の詩作 記念写真

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記念写真               


父母の家に昔の写真が飾られるようになった

目の前の老人が自分の配偶者であるのも何だから

互いの若い姿を見るためなのだと言う


一枚だけさらに時を越えて

今は亡き祖母と手を繋ぐ小学校一年生の母の姿があった

母は年の近い兄弟たちと一列に並び

彼らは皆椅子に座った祖母より背が低い

その後ろに年の離れた兄弟たちが立ち

すでに成長した彼らのうちの一人は

出征兵士として南方へ向かう当日であり

村中からの寄せ書きも家族と並んで立てかけられ

その別離を

あたかも目出度いこととして奉ろうとする

忌むべき熱狂の影が写真全体を包んでいる

芯は強いが大人しく優しかった祖母が

大日本国防婦人会と書かれたたすきをかけて

十二人兄弟の長男を見送っているのだ




私が幼年時代を送ったあの家の前で

別人のように若い祖母と

母と

見知ったおじたちとおばたちが

子どもの顔をして緊張している

わたしが毎日のように出向き

草木の匂いを知り 空と風の表情を知り

犬に噛まれ猫の尻尾をふんづかまえ

蝉を取り雪だるまを転がし

殴り合い走り回ったあの広場で

戦時下の記念撮影は行なわれたのである





彼らの内誰も死なずに終戦を迎えたことは

真実目出度いことであった

死を覚悟して南方へ出陣したおじも

その後の世界で十分に生きたはずだし

祖母は二度と大日本を守ったりはせず

等身大の家郷で

勝手に出入りする夥しい猫たちと

笑顔を交わし続けたのでである





私は父母の家で

突然「あの戦争」を感じた

幼い母の家族の記念写真は

その瞬間にでさえ死に続ける人々の表情をも写していた


そしてまたしても

私の意識は振り出しに戻るのだ

この世は火宅に他ならず

戦時下に人目について起こったことは

いつだってたゆみなく命にまとわり続けて来たのだと

それまでのほんのひとときを過ごす中で

猫を愛で 死を悼むのだ




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