自作の小説
小説と詩と文学随筆と 第二話 「パパは病気で・・・?」 「交通事故で死んだんだ。ぼくが五歳の時だったらしい。パパのことはほとんど覚えてない。パパってどんな人だったってママに聞くと、一人きりでいる時にパパに呼びかけると、こたえてくれるから自分で…
小説と詩と文学と 陽一は一人散歩に出た。大勢で泊まったりする時は、自分だけの時間を持つために必ず皆より一時間くらい早く起きるようにしていた。今では体の方が意識していて、勝手に目が覚める。ジャージにティーシャツでスニーカーを履いて出発した。 …
創作 詩と小説 文学エセーと随筆 そろそろ風呂に湯が貯まる頃だと上がった。 もう少し時間がかかりそうだったので、その間に最低限の食べ物を口にする。平日の夕食は簡素だ。ビールでおにぎり二個を流し込み、生野菜を齧る。納豆をそのままで食べる。ビール…
創作 詩と小説 文学随筆とエセー サッシを開けて、空気を入れ替える。空気は生暖かく、湿気でじとじとしていてが、角部屋の私の部屋は結構風の通りは良く、どうにか凌げるのだった。雨音はかなり響く。この季節には涼やかな音色とはとても言えず、逆に鬱陶し…
創作 詩と小説 文学随筆とエセー 船橋から千葉の奥の方へ三十分も電車に乗れば、北習志野駅へ到着する。この辺りの通勤時間としては平均的であるが、ものすごく遠く感じてしまう。 駅を出ると線路に平行して長い直線の道があり、それは駅の構内の一部のよう…
そして右側には海が広がる。一年を通じて、その青は山の変化する様々な色合いを際立たせつつ、時には鉛色にうねり、時には寒気の中一面に水蒸気が上がったりもした。わたしはこの海が好きだった。この海は世界のどこかを航海中の父と、直接つながっていた。…
前回の話 冬山に逃げた王様の物語③ 百人の武器を持った男たちは王様に言われて森の中に自分たちの食べ物を探しに行きました。 怖そうな男たちのわがままをぴしゃりと押さえた王様を見て、村の人たちはやっぱり王様はすごいなあと関心していました。 100人…
遠洋航路の船乗りだった父は、三、四ヵ月に一週間くらいの割合で家に帰って来た。日常的には父の存在はまったくなく、幼いわたしと姉にとっては、その帰宅は祭り以上にめでたく、何にも増して待ちわびているものであった。 祖父は父親代わりにいろいろなこと…
火葬場から家に戻って、これで一通りの死の儀式が終わったので、親戚の多くは自分の家に帰る用意をした。そして、祖父の生前の愛用品の中から、祖母が要らないといったものを、おじやおばたちが形見分けと称して、帰り支度のバッグに入れていた時だった。大…
文学創作 小説 詩 メルヘン 童話 ポエム エセーのためのカフェ 私は雲の妖精です。 世界中の雲の中にときどき目覚めてはあれこれ語るのが私の生き方。 昨日は月と一晩中話をするうち、切れ切れに私は消えてしまったのですけど・・・・ 今夜は眠れずに窓から…
やがて、わたしは母に連れられて外に出た。その日は曇っていたが、祖父が燃えている間は、不思議と日が射していた。どんなに雨が降っていても、火葬の間は止むのだと聞いたことがあった。その天の配慮のような現象に心を打たれた。 母は、煙突から立ち上る煙…
翌日、祖父の遺体は神妙な手つきで裸にされて、全身を湯で洗われ、髪や髭を剃られ、爪もきれいに切りそろえられた。あの世への旅立ちなので、身なりを整えるのだという話にわたしは妙に納得した。それらの儀式の一連の流れは、あの世が存在するという大いな…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 祖父の時計 母方の祖父は村で一番貧しい家に生まれて、七十八年後に最も裕福な人間として死んだ。 わたしが小学校に入学して間もない頃、祖父は入院した。治らない病気にかかってしまったので、病院からもう生…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 最後の日が来た。 その朝、ミルはいなかった。ミルはいつも母の枕元に寝そべり、母が起きたら一緒に起き上がり、母について階段を下りて行き、餌をもらうという習慣だった。ただ時々はボス猫に呼ばれて広場に…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 引っ越しの日が間近に迫っていた。 その午後、ぼくらは堤防で寝転がっていた。 亜季は起き上がって「気持ちいいね」とぼくに語りかけてくれる。 「うん、いろんなことがたくさん想像できるんだ。こうやって雲…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 学校では亜季のおかげでホームルームの時間にミルをどうするかを話し合ってもらえた。そのこと自体は嬉しかった。みんなユニークな意見をどんどん言った。しかしユニークなだけで現実的に決定的な方法は何もな…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 海の光景を見下ろす二人・・・・・ 承前 それらすべてが午後の輝きの中に浮かんでいた。亜季の姿の背景に浮かんでいた。亜季がそこにいたからこそ覚えている景色だった。ぼくの村から見る海とはやや違う、人々…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 一週間ほどして。ぼくは兄の部屋に呼ばれた。野口五郎が野口五郎岳に上る写真のポスターが貼られていた。ステレオはフル稼働で、その頃はいつもデビューしたての荒井由美か、吉田卓郎か井上陽水の歌がかかって…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 猫と一緒にゆったりと暮らしていたぼくは、ハーモニカのテストの日の夜、ショッキングな話を聴くことになった。 ぼくのうちでは土間に釜がありそこでかつては米を焚き鍋を使っていた。十畳くらいの広さで炭置…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ ぼくの村には整然とした猫社会の秩序があった。まず、村は猫たちにとって四つの縄張りに分かれていた。ミルは東地区の女王だった。ミルと最も頻繁に一緒にいる猫は巨大で首が太く短く、一般の猫ではまったく太…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 境界の村 お別れに 第一話 ハーモニカのテストで不本意な失敗をしたぼくは、すっかりひねくれてしまって、授業が終わった時、自分のハーモニカで机を激しく叩いた。ぼくの中では瞬間的にすべての責任はハーモ…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 発見3 石段を登って道国寺の門の前で後ろを振り返った。遠くの山々に桜が点在し、杉木立は大量の花粉を空中に振りまき、青空を背景に雲の白さがくっきりと浮かんでいた。街のざわめきもここには届かず、暖か…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 自作の童話 雲の妖精の物語 by 海部奈尾人 1.山に登る男の物語① 私は雲の妖精です。世界中の雲の中にときどき目覚めてはあれこれ語るのが私の生き方。 昨日は月と一晩中話をするうち、切れ切れに私は消えてし…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 発見2 ぼくはリトルリーグで野球をはじめて以来、春休みも夏休みも冬休みも、野球抜きの生活をしたことがなかった。 だからその日、朝からグラウンド以外のところへ行く用事で、ごく普通のシューズを履いて、…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 聖徳太子の遺書 発見1 春休みになると、野球部の練習は新年度に向けて少しだれ気味となっていた。 レギュラー争いもほぼ終わっていた。ごくたまにスーパー1年生が入部と同時にレギュラーを取るがそんなこと…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ 聖徳太子の遺書 序に変えて 球団から解雇の話をもらってから目まぐるしく時が流れた。 プロ野球の投手として、もう一花咲かせたいというぼくの希望に妻の同意を得てから、合同トライアウトへ向けてトレーニン…
『五人目のサンタの約束 ~クリスマスの思い出~ 』 ※この小説は<あべよしみ朗読の部屋>チャンネルさんによって 2022年の12月24日クリスマスイブに朗読アップされました www.youtube.com 仁美は平静でいられなくなり、自分にはすねる権利があると…
小説 文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ お接待 古荘英雄 *お接待=お釈迦様の誕生日に花祭が行われそれにちなんで甘茶やお菓子などがお接待として振舞われる。この村では子供たちに早朝小遣い銭を渡すのがお接待として続いていた。 花祭りの日…
文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ きもだめし by 古荘 英雄 夏の太陽が、午後の海に向かって有らん限りの光の矢を射っていた。ゴムボートに寝そ べって、ぼくは幼い夢に揺られていた。水平線の上に巨大な雲の固まりが浮かんでいた。 入道雲の、…
母方の祖父は村で一番貧しい家に生まれて、七十八年後に最も裕福な人間として死んだ。 わたしが小学校に入学して間もない頃、祖父は入院した。直らない病気にかかってしまったので、病院からもう戻っては来ないのだと母から教わり衝撃を受けた。それは、その…