海外の文学作品, それも古典作品の中で、何が読まれているか?
それを考えてみると
良い作品、優れた作品が必ずしも読まれるわけではないということに気づきます。
この点は
「翻訳がどんな風にされているか?」
「誰かが注目して翻訳するかどうか?」
「出版社が押すかどうか?」
そんなことが大いに関係してきます。
で
アーダルベルト・シュテイフターという作家についてです。
オーストリアの作家なのでドイツ語で書くからドイツ文学ということになります。
で
日本ではたぶんほとんど読まれていません。
でも
とてもいい作品を書いてます。
実は、ぼくが一番好きな作家です。
シュティフターという作家の珠玉の作品
長編小説としては『晩夏』がありますが
今回は
とてもきれいで、やさしく、力強い魂の出来事を書いた短編を紹介します。
短編集の「石さまざま」これは名品です。
どれもみな心晴れやかになること請け合いですが、割と暗い話も混ざり、能天気なハッピーエンドとはちょっと違う。
ぼくが一番好きなのは「御影石」という巻頭の作品ですが、石灰石もいい(各標題が石の名前なのです)そして「水晶」というのが割と好まれているようで、日本では短編集のタイトルになってることもあります
水晶|珠玉の短編小説
この話、クリスマスの子供の事件です。
山岳地方に住む幼い兄弟が隣村からの帰り道、迷ってしまって山頂にまでいつのまにか行ってしまい、氷の洞窟に潜り込むという話。
それで美しい氷を水晶というわけです。
オーストリアでは絵本にもなっているようです
クリスマスの夜に自分たちの村の上に神の放ったような光が漂うのを見て感激します。
最後は夜が明けて、二人を探しに来た村人たちに救出されるのですが
この谷あいの村の説明から始まり、二人の迷子のクリスマスの夜を描き、救出されるまでのドラマです。
まあ物語としてはあまり面白くないかもしれないのですが、二人の兄弟を通してなにかしら人間精神と神の繋がりなども垣間見えてきてほのぼのします。
この「石さまざま」という短編、もっともっと読まれてしかるべきだと思います。
とてもおすすめの作品です。
見事な構成を持つ作品
本筋は全体の中の後半であるというように感じています
もしも前半の 山と山あいの村と町と そこに住む人々の描写なしに、幼い兄妹の冒険だけ書くとずいぶんうすっぺらいものになったでしょう。
そして、「山の人々」の生活史の中のひとつの挿話として「こんなこともあった」、と紹介されるのがクリスマスの遭難なのでしょう。
ゆえに、前半なくして後半なく、後半ゆえに前半が輝きをまし、その結果後半がさらに印象深くなる、
そんな絶妙な構成になっていると私的には思うところであります