秋の日のクラシック音楽の詩 2編
巨人マーラーの交響曲が始まる
1.
マーラーの演奏が決まると
指揮者も演奏者も日常生活が破綻するという
交響曲はただでさえ長いのに
2.
しかも
頻繁に訪れるソロパートには
バイオリンやチェロ フルートやクラリネット
そしてラッパの類
そのどれもが緊張に満ち満ちた旋律を完璧にこなさなければ
演奏全体を壊してしまいかねない
ソロパートを担当する奏者は講演終了まで緊張とストレスの渦にいるのだ
3.
そしてソロをもたない奏者たちも
流れにのったメロディーを奏でながら万一の多少のミスはカバーできると思いきや
緊迫と切迫の巨大な効果音の連なりに
かけらのミスも許されないのだ
4.
そしてそうした全体を指揮数る指揮者にいたっては
もう朝のコーヒーも夕方の散歩も愛犬のかわいい瞳も家族の存在も友人とのおしゃべりも
マーラーの呪縛から守ってくれない
もう終わるまで耐えるしかないのだ
唯一の慰めは 自分は今マーラーの暗澹とした人生そのもののようなトンネルを歩いていて
マーラーの曲のようにやがて光の世界へと抜け出すことが決まっているということだ
5.
そのようにしてマーラーは奏でられ
そのようにしてマーラーは聴かれる
6.
だからこそユダヤ人指揮者インバルは言った
「こんなおおげさな 狂ったような音楽は避けられていた。
マーラーが本当に理解され必要とされるようになったのは
二つの大戦とホロコーストの衝撃を人類が知ってからだ」
7.
今 私がこれを書きながら聴いているのは
聴きはじめたら 最後まで聴くしかないのだ