【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

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小説を書く方法~キャラの設定とライトモチーフの魔力:古荘英雄


小説におけるキャラ①

パラドックス

まずキャラが立つというのはどういうことかというと、そこに人形劇ではないrealな人間を作るということです。グループ内の小説で人物が独り歩きしているのは伊豆沖ランドの登場人物くらいです(笑)あとは自我の投影か、無味無臭な登場人物。

ではキャラ設定をしたら、それを登場させたら人間が浮き上がるかというとそうでもありません。設定なくしてキャラ立ちはしないけど、設定したからといってそれだけでキャラは立ちません

書いてるうちに勝手にキャラが成長したり変化したりするので、小説の構造までもが変わることもあります。

どういうことかというと、たとえば八百屋の面白おじいさんと天才少年エンジニアが登場したとして、当然物語が進行します。そして物語が進行するに応じて設定したはずのキャラでは追いつかなくなったり、適応しなくなったりします。この点、作者の意図を越えて小説というのは発展するわけです。ケラーの緑のハインリヒというおおよそ文庫本で1000ページの長編がありますが、これはもともとは短編として執筆がはじまったそうです。

キャラを生むのは作者だけど、物語の中に入れると勝手に成長するのです。

つまり小説には生み出す創造と育てる創造の二種類があるのです。



小説におけるキャラ②

キャラ設定は天地創造です

さてキャラを設定して、その人物がいて、舞台があって、それからそれを使って物語を書く、というイメージを持つ人が多いと思います。

ところがこの順番で書くと薄っぺらい小説になるのです。もちろんこの設定すらしないものは論外ですが。

どういうことか?

たとえば、八百屋のおやじが住む家を描写するとします。

これを宇宙船に乗り込むまでの流れの説明と思って面倒だと思いながら書く、人が多くなりますがそれでは読む方もまったくつまらない

八百屋のおやじの家を書く時は

①家の中を書くと八百屋のおやじの人生がわかるように書く

②そこにあるもの、テレビ、新聞、冷蔵庫の中身、おやじその人などを書いていくことで、家を創造する

家があってそれを説明するのではなくて、作者の筆という光があたることではじめて家というものがこの世に登場するのです

③そしてその家の描写によっておやじのキャラも浮き上がるのです。

キャラ設定を人物説明と勘違いしないように。キャラ設定とは天地創造なのです




『小説におけるライトモチーフの探求』
キャラが動き出すライトモチーフの魔力

ライトティーフ(ライトモチーフ、独: Leitmotiv)とは、オペラや交響詩などの楽曲中において特定の人物や状況などと結びつけられ、繰り返し使われる短い主題や動機を指す

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トルストイ戦争と平和の中で有名なライトモチーフは、アンドレイ侯爵の妻リーザの表情についてである。彼女が最初に登場するのは社交界の舞台。そこでいろいろ描写をされるのだが、うっすらと上唇の上に産毛が生えているというくだりがある。

やがて死の床でもリーザの表情を描写をするときにうっすらと唇の上に産毛があると書かれている

そしてやがてその息子が10歳くらいになった小説の最終章で、彼の表情を書くときにもうっすらと生える上唇の上の産毛が盛り込まれている。さらに館に飾られた亡き母リーザの肖像画にもうっすらと生える唇の上の産毛が描かれている。

かくしてリーザという女性の存在がたった産毛だけでくっきりと浮かび上がり、この少年はあのリーザの息子なのだとなんの説明もなく読者に強く印象づけることができるのである。

これなどはワーグナーのオペラのように小説上でライトモチーフが効果的に使われている事例である。
小説の中の登場人物と場所と出来事のすべてに、このライトモチーフの方法を使うと、世界にスポットライトをあてたようにくっきりとする。

ワーグナーの場合、その人物が出るとまずその人の曲が流れ、次に進行の音楽性になります。
観客はその人のテーマが必ず流れることでその人をその都度意識するのです

言葉でそれをやると、人物の癖や表徐やほくろなどの身体的とくちょうを、その人が登場する度に添えるのです。そうすると驚くほどキャラが立ちます

①今日も上半分が潮で緑色にサビたドアノブを回して部屋に帰り着いた。
②美紀が部屋に来た時、裕二は心臓の鼓動を押さえながら潮風で上半分が緑色にサビたドアノブを回す動作でさえぎごちなかった。
③とうとうこの部屋から引っ越す日が来た。転勤族だからあたりまえではあるが、引っ越し業者が荷物を全部外に出して一人最後に部屋をチェックして、最後の戸締りをした。玄関ドアのドアノブが潮風で緑色に上半分がさびているのを見るのも今日がこれで終わりかとしんみりした。

モノならこんな風に使います。このように、随所にライトモチーフを織り交ぜて行くと世界がくっきりしてくるし、ライトモチーフ自体が伏線にもなるし、詩情を醸し出すのです。
このように文章とはいろんな技があるのです。自我の出る幕などないのです。