『わたしに寄せ来る海と夢』
わたしの前にある海は
遠くに島影を見せながら
夕暮れになると海岸を
覆う優しい 布団のようでありました
わたしの前にある海は
若い希望の残骸を クラゲのように打ち上げながら
まだ生きていても いいのだよ と
荒い中にも優しい潮風の 歌声のようでありました
わたしの前にある海は
水平線まで広がって
雄大にも平和と未来につながった
若々しく 躍動する 魂のようでありました
わたしの前にある海は
連れ去られた悲しみと
取り戻せない悲しみに
鎮痛に鈍く輝く お日様色の午後でした
わたしのあとに残る夢は
20歳の頃の恋心
彼女の白いブラウスが 夏の太陽に
きらめく梅雨の あとでありました
わたしのあとに残る夢は
すべてが終わった人生の
出来事すべてを飲み込んで
日ごと おし寄せる 波のようでありました
わたしの前にある夢は
海のごとくに変わりゆき
やがては時のはしっこで
最後の夢さえ 消えていくのでありました