ヴェルレーヌの秋の歌
【街の向こうの空のかなたに・・・・・・】
空はこの街のビルの向こうに
悲しく青く広がっている
人々が通りすぎるだけの街路樹を
午前の淡い光が包み込んでいく
あの空の青に向かって
少年が走っていく
あの空の青に向かって
少女が手を広げて抱きしめようとする
あの街路樹のささやかな緑に向かって
たくさんの鳥たちが憩いを求める
あの街路樹のひそやかな梢に寄り添って
老人と犬がひとときの休息を得る
何者かにぼくは語りかけたい
人生は
あそこにある
失ったにせよまだ手にしてないにせよ
あのうたかたの色彩と光の中にこそ
それは息づいている
だから
遠くからあの街を
あの空を
あの街路樹を見るのはもう
やめてもいいのだと
もうあれらの風景の中に
入っていってもいいのだと
ぼくの中のやさしさのようなものが
教えてくれる
囁くように諭すように・・・・・・
空は 屋根の向こう Le ciel est, par-dessus le toit
Le ciel est, par-dessus le toit,
Si bleu, si calme !
Un arbre, par-dessus le toit,
Berce sa palme.
La cloche, dans le ciel qu'on voit,
Doucement tinte.
Un oiseau sur l'arbre qu'on voit
Chante sa plainte.
Mon Dieu, mon Dieu, la vie est là
Simple et tranquille.
Cette paisible rumeur-là
Vient de la ville.
Qu'as-tu fait, ô toi que voilà
Pleurant sans cesse,
Dis, qu'as-tu fait, toi que voilà,
De ta jeunesse ?
〈訳詩〉
空は 屋根の向こう
あんなに青く あんなに静か
棕櫚の木は 屋根の向こう
その葉を揺らす
鐘は 空のなか
やさしく響き
鳥は 梢のなか
嘆きを歌う
神さま 神さま 人生はそこに
つつましい 静かな人生はそこにある
あの穏やかな喧騒は
都会のなかから聞こえてくる
何をしてきた こんなところで
お前は絶えず泣きつづけて
さあ言え お前は 何をしてきた
お前の青春は何だったのだ
Paul Verlanie ポール・ヴェルレーヌ
参照