馬車
まずは歩いた。するとそよ風たちが頬を流れるのだった。
最初の旅は急ぐ旅でもなかった。鳥が空たかく丸を描いて飛んでいた。時々立ち止まって大きく空気を吸い込んだ。
それから馬車の時代が来た。馬にまたがり駆けるものもいた。私は、馬車に揺られて次の駅なるものを向かう。だがこの旅も急ぐものではなかった。ただ遠くに行く旅に変容していたのだった。
窓からは頂きに雪をかぶった山々が地平線近くに連なっているのが見えた。あの山の向こうにも世界が続くが今はすぐそばの草の影に、アリたちの行列を眺めてんとう虫の羽を眺める。
私の旅はいつはじまったのだろうか。
どこかで、誰かに、何者かに、出会うはずだと言われたこともある。歩いてたどり着かなければ馬車でとばかり馬を取り換えながら進んだが、いったいどれほどの違いがあったろうか。
いつしか馬車道ができあがり荒野には人と馬があふれてくる。雲の薄い膜を通して太陽がさす。荒野は薄暗い世界に代わり、やがて雨が来た。
地平線まで続く雨雲たち。
そんなときでも私は馬車に乗ってずっと次の駅へ進んでいるのだった。