【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

YouTubeチャンネル『世界の名作文学を5分で語る』のブログ版です。世界と日本の名作紹介と様々な文学批評 そして自作の詩と小説の発表の場です

【トーマス・マン作ワイマルのロッテ】若きウェルテルの悩みのヒロインロッテが晩年のゲーテを訪問した実話

ゲーテと言えば一番有名なのは「若きウェルテルの悩み」

ファウストやウィルヘルムマイスターよりも知名度も人気もウェルテルの失恋物語がダントツトップです。

ウェルテルの悩みのヒロインはロッテ。

このロッテは実在の女性でした。名前もロッテ。

シャルロッテ・ブフさんでした。結婚してシャルロッテケストナーになるのですが

このケストナーさんこそ、ウェルテルが熱愛するロッテの婚約者だったわけです

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トーマス・マンの評論『ゲーテのウェルテル』

トーマス・マンゲーテを自分の 不動の鏡 と呼び アメリカ亡命中などは

繰り返し何度もウィルヘルムマイスターやファウストを 赤鉛筆で線を引きながら読んだほどのゲーテファン、ゲーテ心酔者です

そのマンが若きウェルテルの悩みについての評論の最後にこんな意味のことを記しています

 ゲーテは晩年 ワイマルを訪れたロッテと再会した そして昼食を共にした

 これは事実だがこの逸話をもとに誰か小説を書かないだろうか?

 とても興味深い設定だ

 

で 誰も書く人はおらずマン自身がやがて書くことになります

それが 『ワイマルのロッテ』です

ワイマルのロッテ

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年を取ったゲーテのもとに、ワイマルの宮中顧問官にして国民的詩人のゲーテのもとに、あのウェルテルのロッテのモデルとして誰もが知るシャルロッテケストナーが訪れました。数十年ぶりの 確か40年ぶりくらいの再会でした。

 

ワイマール市民は、熱狂してその訪問を迎えたとか。現代ならテレビ局のカメラやSNSが追い回すような出来事ですね。

なにせ誰もが知るウェルテルという小説の あのヒロインロッテが

ロッテの実物がやって来たのですから!

その、ロッテによるワイマール訪問を土台に書かれたトーマス・マンが長編小説ワイマルのロッテは しかしちってもロマンティックなものではありません。

戦中戦後くらいに出来上がったと記憶しますが 前編小説仕立ての中で
ドイツについて 文化について 芸術について 天才性について
など硬いテーマです そこは面白く書かれてはいますが
 

ワイマル公国の要人やゲーテに関わる人々が次々にロッテのもとを訪れては、会話をして帰っていく、という繰り返しがこの小説です。なので物語というよりはトーマス・マン版の対話編ですね。

 

ゲーテ本人も登場し、ニュルンベルク裁判において、裁判官が作中のセリフを誤ってゲーテ本人の言葉として引用したため話題にもなりました。

 

それほど深くこの本にはゲーテを鏡にトーマス・マンの文化と文学についての考えがたっぷりと述べられていて面白い。

 

ちなみにゲーテとロッテは再会してどうなったか?・・・・・??

まあそれはぜひ読んで見てください(笑)

*******************

 

最後のシーンでロッテの宿泊した宿の主は、改めてウェルテルのロッテに敬礼し、あなたに会えたことは我が一族の永遠の誉れです、というような意味のことを述べて見送るのです。

敬礼するような勢いで見送ったとのこと

現代ならば伝説の大女優が目の前にいるような感じでしょうか

別の角度からもう一本の動画です

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夏目漱石の『三四郎』と森鴎外の『青年』

漱石三四郎は明治の優れた青春小説です

三四郎に触発された鴎外の青年はいまいちの評価です

今回は三四郎のすばらしさと共に

実は鴎外の青年も読みごたえのある素晴らしい文であることをお話しています

夏目漱石三四郎を5分で語る

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夏目漱石の初期三部作のひとつ 三四郎 これは明治の青春小説であり 後期の暗さや苦悩がまだない平和な世界だと思います 漱石漢詩の動画 〇夏目漱石漢詩李白「静夜思」を超訳してみた https://youtu.be/sMBxDeFTsD0

森鴎外の青年を深読みする

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森鴎外の青年は 小説としては駄作だけど 文 としては逸品 名品 だと思います 小説の枠に入らない東洋の「文」です

三四郎と青年を比べながらいろいろ考察するライブ動画

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三四郎と青年を比較しながら詳しく話しています

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海の向こうで戦争がはじまる|村上龍の一番好きな作品

素晴らしい小説 村上龍復権です
美大村上龍の 映像イメージの展開小説
限りなく透明に近いブルーの続編的な作品

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動画の紹介

村上龍は #限りなく透明に近いブルー で芥川賞 二作目が この #海の向こうで戦争が始まる そして三作目が #コインロッカーベイビーズ その後 大丈夫マイフレンドや五分後の世界や愛と幻想のファイスズムなど 膨大な小説やエセーにテレビ出演などを重ねてきましたが 結局 最高傑作は最初の3つの作品かな?と思ったりします

 

W村上は3作目まで歩調が一緒だった

村上春樹の2作目と同じくらいの長さ
3作目も二人は
それぞれ羊を巡る冒険とコインロッカーベイビーズの長さは同じくらい 
展開も似ていると思う
ここまではまさに「W村上」という感じでした
しかしその後はっきり違いが出てきましたね

海の向こうで戦争がはじまる 中身

さて 海の向こうで戦争がはじまる の中身です
女の瞳の中に町が映っている
それは幻影か 作り出しているのか
その町には多くの問題がある そして最後は
カタストロフィが起こる 戦争はすべての土台さえ壊す
繊細な物語も感情も全部まるっとぶっ壊す
それはほどけない紐をほどこうと四苦八苦する横から紐を切ってしまうかのような
カタルシス 映像で抽出し言語化してそれをぶっ壊し
跡にはキラキラ光る海面だけ残る
これぞ村上龍です

詳しくは動画にて

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ディケンズの「デヴィッド・コッパーフィールド」は超絶面白い


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チャールズ・ディケンズは読めば必ず面白いけど

それほど読まれてはいないと思います。

19世紀のイギリスの作家ですが

よく映画化もされています。

「クリスマスキャロル」は

たいていの人が知っていると思います。

 

 

あとは「オリバーツイスト」

これも映画になりました。

映画もいいのですが読んでも面白い。

二都物語」や「大いなる遺産」

も読んだら絶対面白い。

 

さて今日の一押しは

「デヴィッドコッパーフィールド」

です

 

 

これは心に残ります。

日本では純文学と大衆文学に分けていますがこれは

大衆小説です。

分けることはナンセンスという意見もありますが

カフカディケンズが同じカテゴリーに入る?

って思いますから

せっかく便利な言葉があるのだから使っておきます

 

大衆小説の王様がチャールズ・ディケンズです。

ただただ読者を楽しませるためにだけ

面白い筋を追求したディケンズ。だからほんと

とにかく面白いんです

 

デヴィッド・コッパーフィールドについていえば

なが~い話です。

主人公が生まれてから作家として成功して

幼い子供たちと妻と

幸せに暮らすところまで

おそらくは30年くらいの時間を書いてるんですが

 

巻末の

「あの高く  天を指してだ!」

というセリフは

このなが~い小説の全体をつなぐモチーフとなり

もっとも重要なシーンを象徴し

そして最後にもこの言葉はうまくおさまりながら

物語は終わるのですが

ぼくはこの

「あの高く  天をさして」いる妻のアグニスへの感謝でおわる小説が

たまらなく好きなのです。

 

 

なんだか他人事とは思えないくらい

ほのぼのします。

ディケンズ風のすったもんだがたくさんあるので退屈しませんし

 

とにかく最初の10ページだけがまんすれば

最後まで一息に読める小説だと思います。

偉大なるチャールズ・ディケンズ

愛すべきデヴィッド・コッパーフィールド。

 

 

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【クリスマス小説『水晶』】珠玉の短編集「石さまざま」より|オーストリアの作家アーダルベルト・シュティフター

海外の文学作品, それも古典作品の中で、何が読まれているか?

それを考えてみると

良い作品、優れた作品が必ずしも読まれるわけではないということに気づきます。

この点は

「翻訳がどんな風にされているか?」

「誰かが注目して翻訳するかどうか?」

「出版社が押すかどうか?」

そんなことが大いに関係してきます。

アーダルベルト・シュテイフターという作家についてです。

オーストリアの作家なのでドイツ語で書くからドイツ文学ということになります。

日本ではたぶんほとんど読まれていません。

でも

とてもいい作品を書いてます。

実は、ぼくが一番好きな作家です。

 

 

シュティフターという作家の珠玉の作品

長編小説としては『晩夏』がありますが

anisaku.hatenablog.com

今回は

とてもきれいで、やさしく、力強い魂の出来事を書いた短編を紹介します。

短編集の「石さまざま」これは名品です。

どれもみな心晴れやかになること請け合いですが、割と暗い話も混ざり、能天気なハッピーエンドとはちょっと違う。

ぼくが一番好きなのは「御影石」という巻頭の作品ですが、石灰石もいい(各標題が石の名前なのです)そして「水晶」というのが割と好まれているようで、日本では短編集のタイトルになってることもあります

水晶|珠玉の短編小説

 

 

この話、クリスマスの子供の事件です。

山岳地方に住む幼い兄弟が隣村からの帰り道、迷ってしまって山頂にまでいつのまにか行ってしまい、氷の洞窟に潜り込むという話。

 

それで美しい氷を水晶というわけです。

オーストリアでは絵本にもなっているようです

 

 

クリスマスの夜に自分たちの村の上に神の放ったような光が漂うのを見て感激します。

 

 

 

 

 

 

最後は夜が明けて、二人を探しに来た村人たちに救出されるのですが

 

 

この谷あいの村の説明から始まり、二人の迷子のクリスマスの夜を描き、救出されるまでのドラマです。

まあ物語としてはあまり面白くないかもしれないのですが、二人の兄弟を通してなにかしら人間精神と神の繋がりなども垣間見えてきてほのぼのします。

 

この「石さまざま」という短編、もっともっと読まれてしかるべきだと思います。

とてもおすすめの作品です。

見事な構成を持つ作品

うがった見方ですが、本筋とおぼしき物語の前の20ページは実は前書き的ではなくて、前半というものであり
本筋は全体の中の後半であるというように感じています
もしも前半の 山と山あいの村と町と そこに住む人々の描写なしに、幼い兄妹の冒険だけ書くとずいぶんうすっぺらいものになったでしょう。
そして、「山の人々」の生活史の中のひとつの挿話として「こんなこともあった」、と紹介されるのがクリスマスの遭難なのでしょう。
ゆえに、前半なくして後半なく、後半ゆえに前半が輝きをまし、その結果後半がさらに印象深くなる、
そんな絶妙な構成になっていると私的には思うところであります 
 

オンライン読書会をしました

youtube.com

 

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村上春樹の「騎士団長殺し」 を動画で紹介|楽しくわかりやすく村上ワールドを解説

ぼくは村上春樹がデビューして三作目の 羊を巡る冒険 以来

ずっと彼の作品を読んで来ました

私が最初に読んだ 羊を巡る冒険 と2作目の1973年のピンボール 

デビュー作の 風の歌を聴け は当時 新しい文学の形として

とてもサイケデリックな感じさえしていたものです

anisaku.hatenablog.com

騎士団長殺し 動画で語ります

数ある村上作品の中で一番好きなものは何か?

その答えは いつも最後に読んだものが一番好きだ になります

ぼくは読書に際しては再読もよくするので 村上春樹も時々再読します

なので 何が一番好きかというのは その時々の状況次第です(笑)

この記事を書いてる時に一番好きなのは

騎士団長殺し

です

そこで動画を2本作ってみました

1本目

楽しく笑いながら 村上春樹の深く面白い世界の謎を解いていきます

 

村上春樹レイモンド・チャンドラーのような主人公が宝探しをする、そんな小説世界を作ります(昔本人が言ってました)

騎士団長殺しは そのパターンが最高度に成功した小説だと思います

でもチャンドラーのフィリップマーロウといよりはシャーロックホームズのような繰り返しの面白さですね

絶望的な再生産によって生み出される村上ワールドは、安全な膜につつまれて冒険することができます。そこがほんもののカフカとの差かもしれません

2本目

 

なんとなく未処理が多い気がするのと、私の冒険とまりえの冒険の合わせて120ページほどが、べた塗の画のようでちょっとかったるいのが本音です

しかし全体としてはとても面白かった。

しかしそれだけに後半が残念 でも間違いなく面白いです

 

*動画中 南京大虐殺を巡ってこの作品を批判した作家名を失念してましたが、百田尚樹ひゃくた なおき氏でした

 

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ヘミングウェイ『海流の中の島々』の思い出|懐かしい青春の書

武器よさらばより心に残るヘミングウェイ作品|海流の中の島々

 

 

ヘミングウェイ最晩年のこの小説を読むきっかけははっきり覚えています。

予備校生活が終わりその春休みに読みました。

なぜ読んだかというと、加藤和彦の「パパヘミングウェイ」というレコードのネタ本だったからです。

当時加藤和彦が大好きで、結局サディスティックミカバンド以降の全部のアルバムを持っています。

安井かずみが歌詞を書き加藤和彦が曲をつけた何枚かの二人のアルバムの三作目です。

正確には7枚作ったのだったか?

加藤・安井作品で記憶しているのは以下の通り

①それから先のことは

②ガーディニア

③パパヘミングウェイ

④うたかたのオペラ

⑤ベルエキセントリック

⑥あの頃マリーローランサン

⑦マルタの鷹

ヴェネツィア

ボレロカリフォルニア

 

これを全部持っているわけです

ものすごく聴きこみました

パパヘミングウェイはぼくが高校3年の時に発売されたもので

リアルタイムではかぐや姫とか風とか流行っていた時代、レッドツェッペリンやディープパープル、イエスピンクフロイドEL&Pの時代です。

 

 

レコートアルバム パパヘミングウェイの世界観

このレコードは若きヘミングウェイがパリで過ごしたモチーフからはじまり、恋人と別れた男が(実際には最初の妻ハドリーと離婚)やがてカリブ海の陽光の中でたくましく生きる姿を流れの中で歌っている名盤です。

 

パリの後のヘミングウェイ

ヘミングウェイは最初の年上の妻ハドリーを死ぬまで愛していたというのがぼくの独断的意見です。日はまた昇るの前に書いた、本当の第一作目となる長編小説を、旅先の夫のために持ち運ぶ途中盗難にあって、その通称「ヘミングウェイペーパー」

 

と呼ばれる幻の長編小説は今日でも行方不明です。

盗難がわかった夜、彼がハドリーにしたことは一生の秘密だったそうです。

 

やがてボーリンという若い女性と良い仲になってハドリーに発覚、

彼女と別れて100日堪えられたら私は離婚すると妻に言われたヘミングウェイはヨーロッパからアメリカに戻り100日を待ってボーリンと再婚。

 

その後も相手は変わり、結局全部で4回結婚しました。

そして読んだパパヘミングウェイ

ぼくは加藤和彦のレコードを何回も聞いたあとヘミングウェイを読みました。

その最初が「海流の中の島々」。

冒頭の高名な画家、トマスハドソンの男の孤独の描写はとても好きです。

小説は結構悲惨な話になっていきます。三人の息子が二人は飛行機事故で、長男は戦争で死ぬんです。

 

最後は自殺したヘミングウェイの絶望の一端があったのかもしれません。

しかし加藤和彦も自殺しました。

その二人とも大好きなぼくが自殺する可能性は何%でしょうか。

ヘミングウェイの死後半年たってぼくは生まれたから生まれ変わりかもしれません(笑)

ヘミングウェイについて言えば最初の妻ハドリーと離婚しなければ、

加藤和彦についていえば安井かずみと死別しなければ

二人とも自殺しなかっただろうと確信しています。

それは50代になって実感として思うところです。

 

このパリ時代の本を読むと、ハドリーなしでヘミングウェイが生きていくなど不可能だったんじゃないかと思えてくるんです。

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