【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

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名詩紹介 室生犀星初めて「カラマゾフ兄弟」を読んだ晩のこと

ぼくが好きな詩を紹介しています

【初めて「カラマゾフ兄弟」を読んだ晩のこと    室生犀星

 

 私はふと心をすまして
 その晩も椎の実が屋根の上に
 時をおいてはじかれる音をきいた
 まるでこいしを遠くからうったように
 侘しく雨戸をもたたくことがあった

 

 郊外の夜は靄(もや)が深く
 しめりを帯びた庭の土の上に
 かなり重い静かな音を立てて
 椎の実は
 ぽつりぽつりと落ちてきた
 それは誰でも彼(か)の実のおちる音を
 かって聞いたものがお互いに感じるように
 温かい静かなしかも内気な歩みで
 あたりに忍んで来るもののようであった

 私は書物を閉じて
 雨戸を繰って庭の靄を眺めた
 温かい晩の靄は一つの生き物のように
 その濡れた地と梢とにかかっていた
 自分は彼(か)の愛すべき孤独な小さな音響が
 実に自然に、寂然として
 目の前に落ちるのをきいていた
 都会のはずれにある町の
 しかも奥深い百姓家の離れの一室に
 私は父を亡(うしな)って
 遠く郷里から帰って座っていた
 あたかも自らがその生涯の央(なかば)に立って
 しかも「苦しんだ芸術」に
 あとの生涯にゆだねつくそうと心に決めた
 深い晩のことであった
 

解説というか感想

この詩は父親の葬式から東京に戻った日の夜のことを書いてるようですね。
心には父に対する様々な思いや悲しみや寂しさが渦巻いていることでしょう。
そのすべてを吸収するのが椎の実が落ちるナチュラサウンドであり
カラマーゾフの兄弟 なのですね
だからカラーマゾフの世界がひたひたと静かに心の底を通り過ぎていく。
椎の実が落ちる音がそれに伴奏を奏でる
そんな風に父の死の後の夜が更けていく
 
なんとも言えない深さと静けさを感じるのです。
そして深さと静けさを与えたらこの詩はほかのことは何も言わない。
それが人間に与える影響は言葉の意味より大きいのだと思います
 

詩の解説って野暮だと思う

解説を書いた人の世界観でその詩を味わうことになるからです。
でも
詩を自分で味わうにはこの詩でも一回読んだだけではまず無理です。
ぼくがこの詩を自分のものにできたと思ったのは
たぶん5回読み終わったとき。しかもそれは最初に読んで1っか月くらいかかっています。
じわじわとしみこんでくる詩というものがあり
というか詩とは本来そういうもので何度も読んでいる間に
あるときその詩が自分のものになるのです
でも 普通忙しくて一回しか読まないことがほとんど。
そんなとき誰かが書いた解説は 詩から受けた印象が言葉になっていたりして役立ちます。
 
そんな意味でこの詩の解説を書こうとしたけどもうかなり余計なことを書いてしまいました。
 

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