【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

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自作の詩 渡り鳥の天空の道  by辻冬馬

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ

渡り鳥の天空の道  



渡り鳥の進路が

あの空に
あのように

伸びていき

入日と共に水平線に尽きていく



人の世の営みの

はるかな高みにそれは定められ

地上の生命の呼吸の叶わぬ高みを

いわば死に満ちた空間を

渡り鳥の呼吸は軽やかに超えていくのだ

人が始原の一歩を踏み出した

あの揺籃の時代すら

及びもつかない過去のある一点で

その日 地球がささやいたのだ

飛べ とどまるな おまえたちの居場所は

ここではない

定められた地へ 向かえ と

私たちには聞こえることのない

滅びと救いをもたら母星からの

全身への問いかけに渡り鳥は答え続けて

飛び続けている



雲も陽もそれを知る

海も山もその始原のやりとりを聞いた

その不思議な進路は 

迫りくる寒さからの逃亡の道なのか 

言祝ぐべき未来への希望の道なのか

語るものはいない

そして

約束された到達地点に舞い降りる時

飛び立った仲間のすべてが

そこにいるわけではない

飛行の吉兆のすべてをかばうことは

誰にもできない

渡り鳥自身にも

雲にも陽にも 海にも山にも

地球にも

旅の途中で落下したものたちを

彼らは

振り返ることなく飛び続けた

あの失われた仲間たちは

到達の地を夢見たのだろうか


それとも

天空の道に忠実に飛ぶことで

すでに満たされていたのだろうか

老いて命の力が尽きたものも

若い羽根を広げながら天敵に命を奪われたものも

等しく

渡り鳥の進路に殉じたのだろうか

舞い降りた渡り鳥は

なつかしい羽根のどこにも見えないことに

やがて気づく

彼らの鳴き声は切なく深く

その新しい地に響き渡る

渡り鳥の進路を決めたものへ

届けとばかりに やむことなく

響き続ける

命がその内側にもつ哀しみのすべてを

天空のかなたにまで投げつけながら