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自作の詩【ハンス・カロッサという在り方】  EU 西ドイツ バイエルン  人間性 古い泉

ハンス・カロッサという在り方  

1.

中学、高校の頃、行きつけの本屋には当時にしてすでに随分と昔の出版物である『世界の詩集』がそろっていた。そこで買った何冊かがぼくの詩の原体験である。ランボーボードレール八木重吉清岡卓行、ヘッセ、ネルーダ、ロルカ・・・・・・
 そしてカロッサ詩集。

 2.

ぼくは『古い泉』をこよなく愛した。それは戦後の西ドイツ国内のアンケートで、近代ドイツ文学の叙情詩のベスト1になったという。ヘッセの『霧の中』とリルケの『秋日』などかつての文学青年なら誰でも知っている二作品を抑えて、町医者の彼の詩が選ばれたのだった。
 彼の小説は自らの生活記録を語る類のものだ。例えば第一次大戦に従軍中突然蘇った記憶から広がった『幼年時代』。またその従軍記である『ルーマニア日記』。戦後の一兆倍のインフレの混乱の中でつづられた『青春変転』。ヒトラー支配の中で書き連ねた『美しき惑いの年』。彼の著作が記された年月の多くはドイツの混乱と破壊の時代であり、つまり彼の生涯はドイツ帝国のすさまじい勃興とその黄昏行く歳月に収まるのだった。
いつのまにか作品の多くを知る作家の一人となって、ぼくに最も影響を与えた詩人となった。
これらは魂を震撼とさせる世界文学の遺産ではないが、間違いなく魂にしみこみ続ける第一級の散文であり詩文である。むろん日本語で読み書きするぼくは、そのドイツ語の細かい機微まではわからないが、感性の在り方についてはほぼ正確に理解したと思っている。

 

3.

ナチス時代に国内にとどまっていた事で、充分に資格を有しながらカロッサがノーベル文学賞を受賞することは難しいとヘッセが語ったことがある。だが、亡命先でナチスを堂々と批判することと、国内にとどまって精神的に抵抗するのと、その位階に上下をつけることは不可能だというのが今となっては自明の理である。
彼がある町の教会の建物保存のため、市長に連合軍への降伏を勧告したことがナチスの将校の知る所となり、死刑宣告を受けながら連合軍の早い侵攻のおかげで一命を取り留めた話など知る人は少ない。

4.

価値が転がる

彼が籍を置いた国家は

カイザーのドイツ帝国(ドイツ憲法

 

ワイマール共和国(ワイマール憲法

ナチスドイツ


 

 

 

 

 

 

 
 

西ドイツ(基本法

だが転がる価値の中で彼の中には

ゲーテがあったという

だがただ一つの人生にもかかわらず

4つの国に住む

自国の領土が何度も変わる

隣のドイツ世界の

オーストリア帝国が消滅する

一兆倍のインフレが起こる

数百万人規模の死者を二度も出す

国内にいたユダヤ教の人々の

ほぼすべてが消える

 

 

 

 

その間ゲーテだけで生きられたのだろうか

破壊の時がすべて終わったあともなお

プロシアの領土はソ連に奪われ

住民はすべて追放され

ベルリンでは十万人がレイプされ

さらに壁を越える人々は銃殺され

同じ国でありながらそれぞれが

ワルシャワ条約機構北大西洋条約機構

最前線として核ミサイルまで突きつけあう

5.

彼の人生では

東西ドイツの限定核戦争が起こっても

今さら驚くことではなかった 

私はふと思ったりする

晩年西ドイツという国で

彼はバイエルン王国を懐かしんだだろうか

その落差は深すぎる

深みを覗いて

プロシアが征服する前の

緩やかな南ドイツを懐かしんだろうか

6.

それとも未来という深淵を見据え

やがて来るかもしれない統一ドイツを

統一ヨーロッパを

バイエルン人として期待しただろうか

アメリカ人とロシア人に支配されるなど

1900年には想像だにできなかった

論理的に起こりえることは何でもしでかすのが

ホモサピエンスであるからには

そのうち地球を破壊する勢力が現れ

人の心を制御する事ができない以上は

人類は必ずや滅び去るのだ

しかし『林間に照る星』を見つめ

それに恥じるものであってはならないと

誓うものたち

『古い泉』の音を聞きながら眠る者たち

その存在はほっとさせるものがあるが

これらの者達が世を統べることはない

7.

そして私の最後は絶望(シェイクスピア)

それでもまだ希望がある

ある

と私自身は確信している

確信するそのことが意味なのである

根拠や証明はなく信仰でもなく

ある種の精神の在り方である

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