【創作ノート:ある女の精神構造】2021/6/3
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【創作ノート:ある女の精神構造】2021/6/3
子供のころ、秋になると缶蹴りをよくした。だいたい、地域の小学生が学年を越えて10人くらい集まると村のお寺の境内で缶蹴りがはじまった。
ルールは簡単。小さい丸を書いてそこに適当なカンを置く。
夏は暑いし蚊もいるからしない。冬はじっと隠れていると寒いのでしない、春は進級して間がないのでしない。秋に向いた遊びだった。
カンを置いたらじゃんけんをして負けたものが鬼になる。子供たちは寺の裏側に散開して隠れる。鬼は寺を一周して隠れた人間を見つけると名前を呼ぶ。そうすると呼ばれたものは囚われの身となりカンのそばに描いた大きな丸の中に入る。
何周かするうちに全員捕まったら鬼の勝ち。でも、鬼が一周している間に隙をついてカンをけられたら、人質が解放となっていちからやり直しになる。だから鬼はカンをけられないように、注意しながら寺の裏側に向かわなければならなかった。そこに鬼と隠れたものとの間に知恵比べが始まる。
ある鬼は、寺の裏側に行ったと見せかけてそこらへんに隠れてカンをけりに来るのを待つ。すると勇敢にも鬼の隙をついて出てきたものは名前を呼ばれて人質になるのだった。
逆にあるものは寺の屋根に上って鬼の動向を裏側の仲間に知らせたりした。
知恵の応酬は過激となりついに隠れたものたちは究極の技にたどりつく。全員が一斉にカンをめざしてでてくるのだ。9人の名前を一気に言うことは難しく鬼はカンをけられる。
あるとき鬼になったものが知恵を発揮して究極の鬼側の技を開発した。
ちょっと物事を皮肉めいて考える子が提案した。鬼が捕まえて丸の中に入れられた者は、将棋みたいに鬼の持ち札になって鬼と一緒に隠れた者を探して捕まえることができるようにしよう。
これは受け入れられて、ますます過激な知恵比べが始まった。だがこれは一人がかんを見張ってれば残りはいくらでも自由に探しにいけたから鬼が有利になったことはまちがいない。一気に全員がかんを目指しても、そこに3人もいれば、なんとか名前を言えるのだった。
これで鬼側が優勢になったことで、それまで寺の裏手の木の裏に隠れる程度だった隠れ方が過激になった。寺の裏は墓場の始まるところなのだが、墓場の奥深く、墓の後ろなどに隠れるようになったのだった。
ある秋の夕暮れ時、もうあたりが見えなくなるころ合いに小学6年生だった私は、寺から500メートルも離れた大きな墓の裏のやぶの中に隠れていた。缶蹴りももう終わりかけていた。暗くなったらみんな家に帰るのだ。私はついにつかまらないまま、缶蹴りを終えることができそうだった。新ルールのもと、鬼につかまらなかったはじめての人間になりそうだった。秋の日暮れは物寂しく墓に入っているのがどの家の誰か、あるいは何代前の人か、私たち子どもは知っていた。いつまでも私は見つからず墓場は霊の世界に入っていくのだった。
こうして低学年で缶蹴りをはじめて大きくなればみな、新たな方法を思いつき高度に遊びを発展させていった気になっていたのだが、実はこれはすべての世代で起こってきたことだった。私が中学になり缶蹴りを卒業したら、次の学年のものたちがまた新たに発見する方法とルールは私たちの時代と同じものなのだ。
まだ人々が村落共同体で、習慣も仕事も生の在り方も死も、すべて前の世代から引き継いでいた時代のことだ。
首を洗う気分で立ち寄った本社から最寄りの営業店の店内に、この放送が流れたとき、山岸はほっと胸をなでおろした。
3時間まえのことだ。
社長は大手量販店である伊豆沖ランドの二代目でマスコミ受けしか考えない困った二代目であった。
「山岸部長、店を締めるのと開けるのとどっちが目立つかな?」
「開けたらお客様の役には立ちますが来店中にけがをしたらたいへんです。死んだりしたら店さえ閉まっていれば死なずに済んだと訴訟があるかもしれません」
「嵐の中、真夜中でも空いてる伊豆沖ランド!マスコミが讃えて放送しないかな?」
「でも海岸通りにある支店などはほんとに死人がでるかもしれませんよ」
「それは自己責任だろう」
「そうなったとき社長がテレビカメラに向かってそういった瞬間株価が暴落しますよ」
「では閉店の理由を告げるのに法的に完全に言うとどうなる?」
山岸は少し考えてから言った。
「日本国憲法で保障された移動の自由と購入の権利を駆使して来店したもかかわらず、お客様が当店の都合で私は買えなかった、そのため窓ガラスの補強ができずそのため割れたガラスで全治2週間の大けがをした、そのようにお客様が主張されることを回避するために
また
お客様が自由意志により、憲法にのっとって当店に来る選択をした結果、怪我をすることのないようにお客様の安全のために閉店してます。したがって外出における怪我の責任もそれによって生じた室内での怪我への責任も当店は負いません。憲法とも矛盾するものではありません」
社長はご機嫌になった
「どうだろう、そのまま発表したら。受けるだろう」
「・・・・・・」
社長は秘書と広報担当の部長を呼んだ。
そして何やら指示している。
「有意義な話し合いだったね、山岸部長。もう帰っていいよ、台風だ、君もご家族のそばにいたまえ」
今日まで気をつけていたが店内放送で
「日本国憲法にもとづき・・・」
と流れたらおれは首だなと山岸は鬱々と三時間を過ごしたのだった。
社長に指示を受けた広報部長が全店舗にメールを打つべく原稿を読んでいると大型台風を心配してうろうろしていた鬼専務の目に留まった。そして瞬く間に原稿は破り捨てられたのだった。
そして山岸はモーツァルトでも聞く気分で何度も流れる店内放送にうっとりしていた。
「明日は台風19号の影響により、お客様の安全確保を考慮し、臨時休業とさせていただきます」
研修後、仙台に赴任し、以後青森に赴任し、盛岡、秋田、山形と、東北の主要都市を一年おきに転勤したから同期の間で付けらたあだなは「伊達政宗」だった。
伊豆沖ランドでの20年、おれは20年分の体験をした。つまり凡庸に生きてきた。同期の中には30年分の体験をして出世したやつもいるし50年分の体験をして、もう若死にしたやつもいる。寿命だけは、競争してはだめだ、はやくもなく遅くもなく適当にやり過ごすのが一番だ。
さて入社20年目のこの秋、会社は倒産した。
続く
20年働いた伊豆沖ランドが倒産した。そして二代目社長は全然気にしていなかった。彼は資産20億を持っている。おれなら、7回生まれ変わっても暮らせるお金だ。
同期の総務課の花屋根によるとこうなったら記者会見で世の中に謝るしかないと嬉しそうに話していたそうだがまさかほんとに記者会見をするとは思わなかった。
都内の某有名ホテルの一室に記者が50人も集まった。いとう伊豆沖ランドは有名な会社だからワイドショー向けになるのだが、俺たちの不幸がワイドショーになるのかと思うと店舗内のテレビを破壊したくなる衝動に襲われた。
さておれは10台の売り物のテレビを電気掃除機でぶったたいて破壊してそのまま店を出た。そして記者会見場に入った。伊豆沖ランドのテレビコマーシャルでも有名なユニフォームを着て。
司会者の花屋根が言う。
本日は弊社の云々~~~~~~
そして社長が話し出す。
ゼニアのスーツに赤のネクタイ。温和な二代目の表情で、静かに語りだす。楽しそうだ。
記者「今回はインドに一気に1000店舗出店してぜんぜん流行らなかったのが原因での倒産との話ですが、経営責任について、また見通しの甘さについてはどうお考えですか」
社長「父の代からの専務が独断専行で決めたのですが(嘘をつけ、専務の反対を振り切ってお前が決めただろう)結果については私が責任を負うつもりです(過程もプロセスも途中経過も発端もみなおまえの責任だろう)」
女性記者「潔くて武士みたいですね。社員の方々になんて言いますか?」
社長「いたらない私についてきてくれて(いや、誰もついていってなかったぞ)ありがとう。専務に気を使いすぎて(専務が先月死んでから一気につぶれていったな、会社は)暴走をとめられず申し訳ない気持ちでいっぱいです。できるだけのことはしていきます」
とにかく掃除機のスイッチをおして専務の幽霊に向かって突進した。おれは今やNHkのテレビカメラにさえ写されている。桑子キャスターがあの端正な唇で夜の9時に、
「伊豆沖ランドの社員が電気掃除機を片手に記者会見に乱入しました」と記事を読む姿を想像するとファイトが出た。おまけに朝には和久田麻由子アナも「社員の男が電気掃除機で専務の幽霊を吸い込みました。掃除機にはテレビのガラスや部品が付着していたとのことです」と言ってくれるんだ、きっと。
おれは専務の幽霊を掃除機で吸い込んだ。
専務が消えると記者たちの拍手を浴びた。社長は自分より目立ったおれを睨みつけて首だと叫んだ。
「はっ?どうせ倒産だろう?」
「いや首が先だ」
わけのわからないおれたちの会話の隙に専務の幽霊が掃除機から脱出した。
そして社長に取りついたようだった。
社長は再び席に座った。そして立て板に水のように話し出した
驚くべき内容だった
その頃、偽装葬式をやって会社に死んだと思わせた先代からの重鎮、湯船専務はちゃんと日本の足で歩いて、エルトン・マーキュリーのインドカレー店で、キャバ嬢の船越美紀と社長秘書の船越紀子と三人で特製インドカレーナムライス特盛セットを食べていた。
この姉妹は美人だが姉は社長の愛人で妹はエルトンの親戚の愛人だった。
エルトンの親戚はインドでの伊豆沖ランド1000店舗進出作戦の現地総責任者で名前を
フレディ・ジョンと言った。
湯船は二代目の伊豆沖洋を失脚させるために一世一代の大芝居を撃ったのだが、それは湯船がこの船越姉妹の祖父であったから可能な話だった。
最初にエルトン・マーキュリーの店でフレディ・ジョンと名刺交換したときは、二枚の名刺を眺めて「からかっていますか?」
とグーグル翻訳ソフトがAI音声で訳してくれた。
「インドに伊豆沖ランドを展開したら成功間違いなしです」フレディが日本語で言った。
「きっとガンジス川で水浴びしている人も伊豆沖ランドに来るでしょう」
「どうして?」と湯船が聴くと
「スーパー銭湯のすばらしさは身をもって体験したよ」
とフレディは答える。
「伊豆沖ランドは大量に紙や木や機械を売る場所であり風呂屋ではないぞ」
湯船が言うと
「スーパー銭湯の専務だから湯船さんという名前なのかと思った」
とエルトンマーキューリーまで言う始末。
「いっそスーパー銭湯を1000個作るか」
「そしたら私たちもインド旅行に行くわ」
エルトンとフレディが口を揃えて美紀と紀子に言った
「泥の中にでもあると思っているのか、インドのことを」
その時湯船は壮大な失脚計画が頭の中で渦巻くのを感じた。
その頃、山台は屋台でおでんを食べ乍らスマホをいじっていた。
読者はその頃とはどの出来事に対してその頃かといぶかると思うが、その辺は追及してはだめだ。その頃というのはもう時間軸が崩壊したからこそ使う言葉なのである。
ネオンを見ながらホットウイスキーを飲みながらこんにゃくと大根を食べる。熱い。
ヒソンは42歳。韓流ドラマで社長のグラスに毒を入れてひそかにテーブルに運ぶような、そんな顔つきの女だった。
そんな妄想にふけりながら おでんを食べていると突然屋台の隣で男がギターを弾きながら歌いだした。
どこからどうみても福山雅治だった
拍手して道端に置いている缶の中に100円入れた。
すると俺も知ってる小夜というスナック「小夜」のママが福山を呼びに来た。そして痴話げんかを始めた。福山雅治と痴話げんかができるなんて幸せな女だ、おれにとっては小夜ママは色気を感じないのだが、福山には女なんだろう。
「あなたの方がかっこいい」だった。
お世辞でないことはわかった。おれもそう思っていたからだが俺の場合は、不遜にも負けを認めたくないかそう思いたいだけでヒソンの場合は、日本の永住権のためならなんでも言おうと思っていたのだった。
夜は更けていく。屋台のおやじがいつのまにかいなくなっている。今日はラグビーワールドカップで日本がスコットランドに勝ったから飲みに行くんだとおれに屋台を預けて仲間と湯船美紀のいるキャバクラ「雪女」にいった。雪女は毎年冬に客が店内で一人死ぬというロシアンルーレットのような店だった。
一回に「ワン パラグラフ」の連載小説。時々多めに。
その年のビーチは暇だった。8月になっても梅雨が居座り続け気温だけが上がって行った。
峯健司のバイト先の「海の家」も毎日ぱらぱらの人出だった。時給は変わらないからとても嬉しかった。
住み込みで働くリゾートバイト、いわゆるリゾバでT市の海岸に滞在して1週間になる。食費も宿代も出て、バイト代ももらえる天国のようなバイトで20日の予定だった。昼は旅館の経営する海の家、夜は旅館の仕事だった。
「 夏の風とともに 」
②
海のすぐそばにいつもいる。曇り空ばかりの夏。海は空を映し鉛色にうねる。バイトの20日間に2回休みをもらいその最初。時間は夜明け前。ぎっしりと財布に詰まった一時間という名の紙幣。ここに来るには理由を持っていた。理由を作り、理由をバッグに入れて理由とともにこの海岸に立っている。
曙はない。鉛色の雲が漠然と全体として見えるようになる。爬虫類のような夜明け。隔絶された生活と本当の生活。
戻る場所がなくなったかもしれないこのリゾバプロジェクト。気になったのは猫のペーチャ。人間のことなどどうでも良い。
ビーチに海の家の椅子を出してそこに座る。明るくなってうねる波。かもめもいない。何もない。薄暗い光のような膜にとらわれて視線の置き所もなくうつらうつらする。
一回に「ワン パラグラフ」の連載小説。時々多めに。
健司がこのリゾート・ビーチランドに到着したのは早朝だった。
海面には午前の日の光がキラキラと波と一緒に揺れていた。旅館のあてがわれた部屋に荷物を置いて、昼の職場の海の家に向かう。午後から海の家の仕事に入る前、海の家の定食を食べた、リゾバは食事がオール無料なのでメニューはおまかせだった。
仕事開始までの40分をさっそく砂浜で過ごした。と言ってもぶらぶら歩くだけだ。カモメが飛び、波音に交じって遠くセミの鳴き声が聞こえる。
夏の太陽の熱線を海風が穏やかに覆うかのようだった。
そもそもは、と健司は思った。俺はここで焦土と化した自分の心を、満潮がゆっくりと砂浜を覆い隠すように、何かに覆われたいと期待してやってきたのだ。
ミカエルはツキヨミの動力に重力牽引装置を作った。これはアースが発明したものを転用したのだった。
探査艦ツキヨミは目の前にできた重力の坂道を延々と転がり続けることで移動する。そこに地球の空を飛ぶための工夫は一切不要だ。翼も流線形も空気を利用する装置だが宇宙空間では役に立たない。
宇宙空間の高速移動の問題点は「宇宙のちり」=宇宙塵との衝突や亜高速時にぶつかる分子の影響により艦が傷むこと、そして他の恒星からあびる宇宙線だった。地球では太陽線をバンアレンタインが守っている。なければ生命は死滅する。
月そっくりの宇宙探査艦は当たり前のように「月読」と命名されたのだった。(続く)
アースは限りなく脳に近く思考するようになった。というのはランダムとカオスを認識するということであるが、これまでのコンピューターが言語と数字で思考していたものを、言語の代わりにイメージをそのまま二進法に還元することができた。イメージは言語の数百万倍の情報を持つ。したがって、あらゆるシーンで映像と動画を使って瞬時に思考するアースは通常のコンピュータの一億倍の威力を持つとされた。
そしてそのネットワークであるアースをさらに情報集約したものがミカエルであった。
ところでアースの思考から、太陽の膨張が209年後に始まり、そこから10年以内に地球表面の温度は500度になることが判明したのである。
残されたの200年。現在の技術ではまだ人類の移住は不可能。ここにおいて人類は二つのプロジェクトを同時進行させた。人はツキヨミの任務だ。
ミカエルは宇宙探索だが、アースの任務は困難を極めることからミカエルは絶対に失敗は許されないのだった。
宇宙探査艦月読命(ツキヨミノミコト)
第一章 第一話 ツキヨミとミカエル
スーパーAIコンピューター「ミカエル」は声を無限に持っていたが、司令室では2種類を使い分けていた。
宇宙船 「ツキヨミ」の運行については女性の声で、未知との遭遇や緊急事態や戦闘に際しては男性の声がそれに加わる。それぞれ特定の声で統一されていた
千人の乗員が運航のための仕事に費やす時間は、いつも二つの声と一緒だった。が、それ以外の自分の時間には、ミカエルの声は人それぞれの、様々な要望に応じて無限の変化を見せるのだった。
ツキヨミの大きさは淡路島ほどであった。あるいは琵琶湖ほどであった。
アメリカと日本とEUで作られた宇宙委員会に、中国とロシアが参加して、月面基地が3年かけて建造された。その後そこで2年かけてツキヨミは建造された。もっともその前にミカエルを作るのに日米欧の共同作業で10年かかっていた。ミカエルの能力でその後の作業をしたから、後の作業は5年で済んだのである。
正式名称「地球艦隊所属宇宙探査艦月読命(ツキヨミノミコト)」は、表向きには包括的宇宙探査の名目で出港して1年が経過していた。本来の任務は別の太陽系で人類の移住できる場所の探索だった。もちろん太陽光線のなかの成分や、大気や土中成分などから完全にある星の生命体が別の惑星に移住できる場所などはありえない。ガラスドームと科学設備を使って、エネルギーの補充を受けつつその設備が半永久的に維持できる場所の探索ということだ。同時に、ツキヨミ型の艦で、恒久的に人間が暮らせるかの実験でもあった。
太陽系で地球の生命が存続できる時間はあと200年ほどだということが証明されてしまったのだった。(続く)