【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

YouTubeチャンネル『世界の名作文学を5分で語る』のブログ版です。世界と日本の名作紹介と様々な文学批評 そして自作の詩と小説の発表の場です

その少年   海部

その少年

これは随筆ですから。(笑)


  1

むかしむかしのことだった

海を越えたあるとこに

何をやっても

ほんとにだめな

とろくてまぬけでそれでいて

言い訳だけは哲学的な

そんな少年がいたんだと


野球をやればマウンドで

相手チームがヒットの山

バットをもって意気込むも

バットは空を切るばかり

アメフトやれば正面の

キックのチャンスも転ぶだけ

勉強すれば教室で

ミスター・昼寝があだ名となって

起きてる時でも先生の

指名に答えたこともない


  2

そんな彼も成長し

いつしか就職活動に

やっぱりどこも不採用

さすがに少しはがっくり来たが

気を取り直して決心した

こうなったら漫画家だ

元々漫画が大好きで

漫画を描くときすべてを忘れる!!

きっと神様みていてくれて

わざと就職だめにした


それから毎日楽しみながら

せっせと書いては出版社

どれもこれもがゴミ箱行き


  3

さすがに彼も気が付いた

生まれてこのかたなにかをやって

うまくいったためしがない

よしもう死のうと思った時に

せめてぼくの思い出を

みんなに知ってもらおうと

自分のことを書いてみた

*************

野球をやれば下手くそで

アメフトやれば馬鹿にされ

勉強できない 就職できない

女の子にももてないし

飼い犬からさえなめられる


ミスター・シュルツが自分を書いた

その少年の名前こそ

「チャーリーブラウン」なんだって。

だからその飼い犬の名前こそ

スヌーピー」だったんだって。

一通の電子メール~学生時代の同級生の女の子が40台半ばで子供を残して亡くなった時死後友人たちにメールが来た F

1通の電子メール


あれはもう15年も前のことだ。

学生時代の友人から電子メールが来た。彼とは東京と福岡にいても時たまメールで近況報告する仲だったので、いつもの変哲もないメールだと思った。

私は軽い気持ちで何気なく読んだ。


「私の人生を彩ってくださった皆様へ」

と書かれている。

なんだ?これは?

「人生、長さじゃなくて質だと思うことにしました。充実した人生を送りました。心は晴れ晴れです。ありがとうございました」


友人の言葉がそのあとに続いていた。

「○○さんが3日前に亡くなりました。彼女のご主人から彼女の最後の言葉がメールとして発信されていて、できるだけ多くの、彼女にかかわった人たちに届くようにしてくださいとのことなので、送ります」


私たちと同級生の彼女は享年42歳。上の子供もまだ高校生だった。

私は彼女をはじめ多くの親しい人たちの死を見送ってきた。一つだけ言えることは、孤独な死はどこにもなかったといことだ。

当時私は彼女の知人の末端に位置していたからどこにもメールを転送しなかった。だが、今、遅まきながらこうして拡散させていただいた。この文章を読む読者は彼女を知らない人ばかりだが、きっと彼女も喜んでくれると思う。


【創作のためのデッサン】「夏の風とともに」

 

一回に「ワン パラグラフ」の連載小説。時々多めに。

 

「 夏の風とともに 」

 その年のビーチは暇だった。8月になっても梅雨が居座り続け気温だけが上がって行った。

 峯健司のバイト先の「海の家」も毎日ぱらぱらの人出だった。時給は変わらないからとても嬉しかった。

 住み込みで働くリゾートバイト、いわゆるリゾバでT市の海岸に滞在して1週間になる。食費も宿代も出て、バイト代ももらえる天国のようなバイトで20日の予定だった。昼は旅館の経営する海の家、夜は旅館の仕事だった。

 

「 夏の風とともに 」

 

海のすぐそばにいつもいる。曇り空ばかりの夏。海は空を映し鉛色にうねる。バイトの20日間に2回休みをもらいその最初。時間は夜明け前。ぎっしりと財布に詰まった一時間という名の紙幣。ここに来るには理由を持っていた。理由を作り、理由をバッグに入れて理由とともにこの海岸に立っている。

 
 

曙はない。鉛色の雲が漠然と全体として見えるようになる。爬虫類のような夜明け。隔絶された生活と本当の生活。

 

戻る場所がなくなったかもしれないこのリゾバプロジェクト。気になったのは猫のペーチャ。人間のことなどどうでも良い。

 

ビーチに海の家の椅子を出してそこに座る。明るくなってうねる波。かもめもいない。何もない。薄暗い光のような膜にとらわれて視線の置き所もなくうつらうつらする。

 

 

 

 

一回に「ワン パラグラフ」の連載小説。時々多めに。

 

「 夏の風とともに 」③

健司がこのリゾート・ビーチランドに到着したのは早朝だった。

 

海面には午前の日の光がキラキラと波と一緒に揺れていた。旅館のあてがわれた部屋に荷物を置いて、昼の職場の海の家に向かう。午後から海の家の仕事に入る前、海の家の定食を食べた、リゾバは食事がオール無料なのでメニューはおまかせだった。

 

 
 

仕事開始までの40分をさっそく砂浜で過ごした。と言ってもぶらぶら歩くだけだ。カモメが飛び、波音に交じって遠くセミの鳴き声が聞こえる。

 

夏の太陽の熱線を海風が穏やかに覆うかのようだった。

 

そもそもは、と健司は思った。俺はここで焦土と化した自分の心を、満潮がゆっくりと砂浜を覆い隠すように、何かに覆われたいと期待してやってきたのだ。

 

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【SF小説の創作ノート】滅亡からの旅立ち|第一章第3話<ツキヨミの姿>


 宇宙艦ができるまでは月面基地に一端設置されたコンピューターミカエルは探査艦ツキヨミの設計と製造のほぼ100%を請け負った。製造器具に内臓されたコンピューターもみなミカエルソフトであった。

ミカエルはツキヨミの動力に重力牽引装置を作った。これはアースが発明したものを転用したのだった。

 原理はこうだ。


 宇宙船の前方に重力場を作る。宇宙船の質量とのバランスで規模と距離はミカエルが計算した。そしてその重力場が空間に、坂道を作ることになる。

 アインシュタインの有名な重力モデルがあるが、平面におもりを置くとそこがへこんで、坂ができる。惑星の公転は太陽というおもりが作ったへこみを、ぐるぐる回っているということだ。

 重力場を重くすると、へこみは坂ではなく崖のようになる。すると亜高速で宇宙船は飛ぶ。

 ちなみにこの重力場が究極的に重くなるとブラックホールとなるのだ。

探査艦ツキヨミは目の前にできた重力の坂道を延々と転がり続けることで移動する。そこに地球の空を飛ぶための工夫は一切不要だ。翼も流線形も空気を利用する装置だが宇宙空間では役に立たない。

宇宙空間の高速移動の問題点は「宇宙のちり」=宇宙塵との衝突や亜高速時にぶつかる分子の影響により艦が傷むこと、そして他の恒星からあびる宇宙線だった。地球では太陽線をバンアレンタインが守っている。なければ生命は死滅する。

 ミカエルは、ツキヨミの表面を実際の小惑星から採取した岩石で覆って、それを衝突するものと熱線からの盾とした。そうしてできあがったツキヨミの形は「月」にそっくりだった。大きさは日本の琵琶湖ほどであった。

 惑星や衛星の球体は、生命を運びながら宇宙空間を飛翔するために最も合理的な姿なのであった。

月そっくりの宇宙探査艦は当たり前のように「月読」と命名されたのだった。(続く)


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【SF小説の創作ノート 出だし部分】宇宙探査艦月読命(ツキヨミノミコト) 第一章 第2話 太陽膨張論と二つのコンピュータ【海部】

宇宙探査艦月読命(ツキヨミノミコト)


第一章 第2話 太陽膨張論と二つのコンピュータ

 スーパーコンピューターミカエルは、各国が誇るAIのすべてをつないだ時に現れたスーパーAIアースを宇宙船用に改変したものである。

 アースは限りなく脳に近く思考するようになった。というのはランダムとカオスを認識するということであるが、これまでのコンピューターが言語と数字で思考していたものを、言語の代わりにイメージをそのまま二進法に還元することができた。イメージは言語の数百万倍の情報を持つ。したがって、あらゆるシーンで映像と動画を使って瞬時に思考するアースは通常のコンピュータの一億倍の威力を持つとされた。

 そしてそのネットワークであるアースをさらに情報集約したものがミカエルであった。

 ところでアースの思考から、太陽の膨張が209年後に始まり、そこから10年以内に地球表面の温度は500度になることが判明したのである。

 残されたの200年。現在の技術ではまだ人類の移住は不可能。ここにおいて人類は二つのプロジェクトを同時進行させた。人はツキヨミの任務だ。

 もうひとつは地球そのものを人工的に移動させることだった。それはアースが受け持った。

 ミカエルは宇宙探索だが、アースの任務は困難を極めることからミカエルは絶対に失敗は許されないのだった。

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【これは本格SF小説のちゃんとした出だしだ!】宇宙探査艦月読命(ツキヨミノミコト) 第一章 第一話 ツキヨミとミカエル 海部

宇宙探査艦月読命(ツキヨミノミコト)

第一章 第一話 ツキヨミとミカエル

スーパーAIコンピューター「ミカエル」は声を無限に持っていたが、司令室では2種類を使い分けていた。

宇宙船 「ツキヨミ」の運行については女性の声で、未知との遭遇や緊急事態や戦闘に際しては男性の声がそれに加わる。それぞれ特定の声で統一されていた

千人の乗員が運航のための仕事に費やす時間は、いつも二つの声と一緒だった。が、それ以外の自分の時間には、ミカエルの声は人それぞれの、様々な要望に応じて無限の変化を見せるのだった。

ツキヨミの大きさは淡路島ほどであった。あるいは琵琶湖ほどであった。

アメリカと日本とEUで作られた宇宙委員会に、中国とロシアが参加して、月面基地が3年かけて建造された。その後そこで2年かけてツキヨミは建造された。もっともその前にミカエルを作るのに日米欧の共同作業で10年かかっていた。ミカエルの能力でその後の作業をしたから、後の作業は5年で済んだのである。

正式名称「地球艦隊所属宇宙探査艦月読命(ツキヨミノミコト)」は、表向きには包括的宇宙探査の名目で出港して1年が経過していた。本来の任務は別の太陽系で人類の移住できる場所の探索だった。もちろん太陽光線のなかの成分や、大気や土中成分などから完全にある星の生命体が別の惑星に移住できる場所などはありえない。ガラスドームと科学設備を使って、エネルギーの補充を受けつつその設備が半永久的に維持できる場所の探索ということだ。同時に、ツキヨミ型の艦で、恒久的に人間が暮らせるかの実験でもあった。

太陽系で地球の生命が存続できる時間はあと200年ほどだということが証明されてしまったのだった。(続く)



【創作のためのデッサン】『旅人の物語』第3章<馬車で薔薇の家に着く>

旅人の物語 第3章 「馬車で薔薇の家に着く」




 馬車の移動は夜行われた。

 体を休め、眠っている間にウィーンからアルプスへの旅も終わろうとしていた。

 馬車の窓から上空が紫色に染め上げられるのを眺めた。もう何度も太陽のもとで歩き、夜になると憩いの時をもった山々が連なる。荘厳な眺めは新たな一日を告げているがまだ鳥が鳴く前の時刻だ。いつまでも残る明の明星にこれからの人生の幸運を祈った。

 そして薔薇の家に到着したときに、ちょうど太陽がアルプスからその縁を出した。神々のスポットライトを浴びて薔薇の家の庭に降りた。薔薇の家の男爵がみずから迎えてくれた。小鳥がさえずり広大な庭も新たな日をはじめたところだ。

「ようこそ、ハインリヒ。あなたはついに家族の一員としてここに戻ってきましたね」

「ありがとうございます。最初は雨宿りにやってきて、今は晴れ渡った夜明けにまた参りました」

そして二人はナターリエの近況を話しながら屋敷の中へ入った。

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