旅人の物語 第3章 「馬車で薔薇の家に着く」
馬車の移動は夜行われた。
体を休め、眠っている間にウィーンからアルプスへの旅も終わろうとしていた。
馬車の窓から上空が紫色に染め上げられるのを眺めた。もう何度も太陽のもとで歩き、夜になると憩いの時をもった山々が連なる。荘厳な眺めは新たな一日を告げているがまだ鳥が鳴く前の時刻だ。いつまでも残る明の明星にこれからの人生の幸運を祈った。
そして薔薇の家に到着したときに、ちょうど太陽がアルプスからその縁を出した。神々のスポットライトを浴びて薔薇の家の庭に降りた。薔薇の家の男爵がみずから迎えてくれた。小鳥がさえずり広大な庭も新たな日をはじめたところだ。
「ようこそ、ハインリヒ。あなたはついに家族の一員としてここに戻ってきましたね」
「ありがとうございます。最初は雨宿りにやってきて、今は晴れ渡った夜明けにまた参りました」
そして二人はナターリエの近況を話しながら屋敷の中へ入った。