【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

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旅人の物語 第3章 「馬車」① 第二稿 海部奈尾人

旅人の物語 第3章 「馬車」① 第二稿

馬車の移動は夜行われた。

体を休め、眠っている間でさえ、船と同様動き続けることができるからだ。太陽のもとで歩き、夜になると憩いの時をもち、あまりのも遠さのため目的地を考えることなく、いつも翌日の天気を気にするだけの徒歩の旅と違い、馬車の旅は目的地を射程距離にもつ。もう土地を自分の足で歩き、頬を流れるそよ風とも無縁の旅となった。

夜の窓からは星々が見えた。天の川の荘厳な背骨に感嘆し、北斗七星とカシオペアを意識して北極星を確かめ続ける。だが馬車には馭者がいる。馭者への信頼せ確かなら北極星を無視して、さそり座とそのアンタレスを眺め、冬には白鳥座に物寂しさを感じたりもできる。

夜明け前の1時間、夜から朝への転換の時間を何度馬車で過ごしたことだろう。あの頃は多くの人がその時間に目を覚ましたものだった。

遠くの山の上空が紫色に染め上げられるのを人々は、起き抜けの眼で毎日眺めていたものだ。

そして私は馬車の窓から、いつまでも残る明の明星に新たな一日に幸運を祈ったものだ。また新たな太陽の一日が始まる。

だが雨の日でも、地平線まで続く雨雲が荒野を半ば湖のように変えてもやはり新たな一日は始まるのだった。