【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

YouTubeチャンネル『世界の名作文学を5分で語る』のブログ版です。世界と日本の名作紹介と様々な文学批評 そして自作の詩と小説の発表の場です

文学の裾野の広がり|大陸のように広大な芸術形式

文学の領土というと固いけど

その範囲はどんなものだろうか?

文学というとざっと思いつく表現方法としてはこんな感じ。

 

小説

戯曲

随筆

優れた日記

優れた手紙

 

数えたこともないが日本語で出版されている文学のカテゴリーに入る書籍は

何冊あるのだろうか。

 

文学だけで一生退屈しないことは間違いない。

でも

たとえば30分以上同じ本を読み続ける時間

2時間通しで読書する時間

 

そんな時間が減っている

そんな時間は瞑想の効果もあるだろうけど

ひとつのことを15分以上することってあまりない

 

お酒を飲むことくらいか(笑)

 

 

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輝きというもの 


ふすまを開けるとそこからは
異形のものたちが入ってくる

 

それは恐怖だろうか
力だろうか
それとも光なのだろうか

 

それは明日からのものたちだろうか
それとも昨日たちの屍だろうか

 

 

 

ふすまの向こうの夜の闇では
表面に張り付いた光を肉眼で見ることができるが
昼には光は見るものではなく
青の深みに潜っていくときにだけ
感じるものだ

 

 

今は夜
この今がこのように連なる時は
いつも夜
ふすまの向こうが輝く時刻
私たちが世界と直につながる世界なのだ

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永遠 辻冬馬

永遠


瞳の瞬きの間に

星が死ぬ

星の瞬きの間に

人が死ぬ

だから

星も人も互いを知ることはない





星も人も

次に輝くとき

次に光が入り込むとき

すでに互いの命は消えている


だから

そんな不思議な命のことを

どんなに探ろうとしても

どこにもたどり着けないことを知るだけだ


だが

その瞬きの狭間では死滅していながら

次の輝きと

次の視界にだけ生きる

そんな命があることは

誰もが経験したことなのだ




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雲が消える  海部奈尾人

千億の心と二千億の目




この誰もが知る地から空にかけての広がりの中で

あの雲が青の中でまさに消えていった


雲が視界からなくなるときは

流れ去ると思い込んでいないだろうか


雲が千切れ剥がれ消滅するのを見た人は

いるだろうか?


人類の死者の総数は

1000億人を越えるという

1000億人の2000億の目が眺めたのは

流れ行く雲の姿であり

青の空間に吸い込まれる雲ではなかった

あの誰もが知る地から空にかけての広がりの中に

わたしたちは千億個の悲劇の映像が刻まれていることを

いつの日か思い知らされるだろう

それだけの人が共通して体験したものこそが

死であった






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浮上と飛翔の境目に見つめあう者たち 辻冬馬

浮上と飛翔の境目に見つめあう者たち

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ビーチボールにつかまった熊が

海中からその浮力で

ゴムボートをオールを漕ぐ誰かの

すぐそばに浮き上がってくる

熊は悪気なく

不思議そうな顔で

オールを漕ぐ人を眺める

その熊が海面から空中に

さらに浮いて飛んでいくかすかな時間の中で

オールを漕ぐ人は

熊のいなくなった海中のバランスを取り戻すために

島の脇の洞窟にゴムボートで入っていく

熊とすれ違う瞬間に

漕ぐ人は熊をどんな顔で見るのだろうか?

その表情が

世界を少しだけ確かに変える





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「トルストイ随想」 文学を巡る対話集

戦争と平和

ぼくは戦争と平和を2回通読し、時々部分読み返します。 

トーマスマンが折に触れて読み返していたそうです。

亡命中にも「心を支えるために」通読したなどと手紙に書いてますね。 

ロマンロランも「美的」なものにたいへんな影響を受けたと。 

 

そしてぼくはこれは、人間喜劇なのかと思いました。 

短編集です。 

大きなストーリーでくくって長編小説にしてますが、

たとえばナターシャとソーニャのおしゃべりをしたの階でアンドレイが聞くシーンとか、

ペーチャが戦死するところ、ニコライが戦地から帰宅するところ、などなど。

どれも美しい短編小説として一級品ですよね。 

 

これを短編集として10冊くらいにわけて編集出版すればあらたなトルストイファンが生まれるに違いないなどと思います。 

 

 

ぼくが一番すきなシーンは、

男にだまされたナターシャがアンドレイに振られて嘆くのをみたピエールが、真冬に馬車にのってほうき星をみるシーンかな。 

アンドレイが戦場で倒れて空を見上げるシーンも捨てがたい。

とにかく珠玉の短編を大河の流れでまとめているまさに叙事詩ですね。

 

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その他に覚えてる戦争と平和のシーン。 

 

ピエールがはじめて妻となるエレンにあったとき、社交界のテーブルに座るエレンの胸元を凝視するピエールがドキドキする場面。 

アンドレイの妻に抱きつくようにコートをキセルアナトーり。 

③ロストフ伯爵邸に向かう途中の森で行こうアンドレイ。 

④モスクワが燃えるのを遠くから眺める人々、避難民たち。その中の老人の一人が「母なるモスクワが」と泣き出すシーン。 

 

⑤閉じ込められたピエールが星空をみて突然自由を感じて悟りを開く 

⑥ボロジノの会戦の少し前、ニコライが戦地で雪をみてロシアを思い出すシーン。 

⑦婚約中のナターシャが狩りに行き、おじさんの家でダンスを踊り食事をするシーン。 

 

 

いあや~~~~

 

やはりこれは短編集です。 

 

こんな風に並べていくと200くらいになりますね、きっと。

 

 

 

でもこれらのシーンが同じ一つの物語となって流れていくというのは、

 

こんなものはロシア人だからかけるのかなあなどと思いますね。 

あるいはこれがヨーロッパにおける地中海的精神、叙事詩の精神なのでしょう。

 

 

 

アンナ・カレーニナも同じ原理です。 

 

トルストイルネサンスのためには編集が必要です

 

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戦争と平和    これはたぶんバルザックスタンダールがやとうとしたことのほぼすべてが入っている。 

トルストイの小説は

バルザックの短編の面白さはないし、

スタンダールの心理描写には負けるし、

ドストエフスキーのような深淵なる人間の心の内側もない。 

 

でもトータルとしてそのすべてが入っている。 

そしてこの小説のだいご味はそれらが一緒くたになって流れていくとこだ。 

これらを一つの川にして流すことは、だれにもできなかった。 

 

トルストイの風景描写の細かさはそのひとつひとつが実は心理描写であり、

木の上でヒバリが泣いているその鳴き声と、空気のひんやりとした感触と見上げる空の青さが一体となって、そこにいるアンドレイの心を表している。 

それは音楽が心の深さを表現するやりかたに似ているのかもしれない。 

 

だからこのトルストイの小説を、他のヨーロッパ小説と比較することは無意味かもしれない。 

とてつもない読み物だ。 

 

これを前にするとジャンクリストフやトーマスマンの小説も少し違うだろうと思えてしまうのだ。

 

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【漢文超訳集】李白と杜甫の詩をヘッセ風に翻訳してみるとそれは素晴らしい近代的な詩に生まれ変わる

李白 牀前 月光を看る

牀前 月光を看る
疑うらくは是 地上の霜かと
頭を挙げて 山月を望み
頭を低れて 故鄕を思う 

 

 

<夜の静けさの中で月を見て>

 

夜 人々がもう横になって
今日の日に別れを告げて
眠りに入ろうとする時刻

 

月が私のベッドを照らしていることに気づく
あまりにもくっきりと
月光は忍び寄り
あたかも霜が張ったかのようにさえ
私には思えたのだった

 

心を揺さぶれて
私は一人起き上がり
はるかな山々を眺める
月はそこから今登ってきたところだった

 

はるか故郷にも今
この月はやさしい光をなげかているだろう
わたしの愛する人々に今
この月はやさしく囁きかけていることだろう
願わくばひとり離れたこのわたしの
夢をみていてほしいと思う

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春を迎える悲しみの歌(春望)超訳  Toho

「内乱」が私たちの都長安を破壊した
家々が燃え 宮殿が蹂躙され
数えきれないほどの人々が死んだ
無数の悲嘆と涙が街中に溢れているにもかかわらず
長安を取り囲む山や
長安に注ぎ込む河は
何も変わることなく
春を迎えて 草木が再び生い茂る

 

 

ああ
人の世の姿は私の奥深く悲しみを植えこむ
人の心を癒すはずの花を見ても涙が止まらず
家族との別れの辛さに
軽やかな鳥の鳴き声にさえ心が傷む

 

未だに戦いの狼煙が果てることはなく
いつしか家族からの音信もまれになり
待ちわびる私の心には
手紙の中の
子供たちと妻の筆跡は
何を犠牲にしても抱きしめたいものなのだ

 

世界の終わりを目の当たりにした私の心は
もう耐えきれず疲れ果て
白髪が頭を覆うばかりだ
そして何気にそれは薄くなっていく
私も世界のように終わりつつあるのだろうか
もう私の肉体は若き日の面影から遠く離れてしまった
長安がそうであるように
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