ぼくは戦争と平和を2回通読し、時々部分読み返します。
トーマスマンが折に触れて読み返していたそうです。
亡命中にも「心を支えるために」通読したなどと手紙に書いてますね。
ロマンロランも「美的」なものにたいへんな影響を受けたと。
そしてぼくはこれは、人間喜劇なのかと思いました。
短編集です。
大きなストーリーでくくって長編小説にしてますが、
たとえばナターシャとソーニャのおしゃべりをしたの階でアンドレイが聞くシーンとか、
ペーチャが戦死するところ、ニコライが戦地から帰宅するところ、などなど。
どれも美しい短編小説として一級品ですよね。
これを短編集として10冊くらいにわけて編集出版すればあらたなトルストイファンが生まれるに違いないなどと思います。
ぼくが一番すきなシーンは、
男にだまされたナターシャがアンドレイに振られて嘆くのをみたピエールが、真冬に馬車にのってほうき星をみるシーンかな。
アンドレイが戦場で倒れて空を見上げるシーンも捨てがたい。
とにかく珠玉の短編を大河の流れでまとめているまさに叙事詩ですね。
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その他に覚えてる戦争と平和のシーン。
①ピエールがはじめて妻となるエレンにあったとき、社交界のテーブルに座るエレンの胸元を凝視するピエールがドキドキする場面。
②アンドレイの妻に抱きつくようにコートをキセルアナトーり。
③ロストフ伯爵邸に向かう途中の森で行こうアンドレイ。
④モスクワが燃えるのを遠くから眺める人々、避難民たち。その中の老人の一人が「母なるモスクワが」と泣き出すシーン。
⑤閉じ込められたピエールが星空をみて突然自由を感じて悟りを開く
⑥ボロジノの会戦の少し前、ニコライが戦地で雪をみてロシアを思い出すシーン。
⑦婚約中のナターシャが狩りに行き、おじさんの家でダンスを踊り食事をするシーン。
いあや~~~~
やはりこれは短編集です。
こんな風に並べていくと200くらいになりますね、きっと。
でもこれらのシーンが同じ一つの物語となって流れていくというのは、
こんなものはロシア人だからかけるのかなあなどと思いますね。
あるいはこれがヨーロッパにおける地中海的精神、叙事詩の精神なのでしょう。
アンナ・カレーニナも同じ原理です。
トルストイルネサンスのためには編集が必要です
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戦争と平和 これはたぶんバルザックとスタンダールがやとうとしたことのほぼすべてが入っている。
トルストイの小説は
①バルザックの短編の面白さはないし、
②スタンダールの心理描写には負けるし、
③ドストエフスキーのような深淵なる人間の心の内側もない。
でもトータルとしてそのすべてが入っている。
そしてこの小説のだいご味はそれらが一緒くたになって流れていくとこだ。
これらを一つの川にして流すことは、だれにもできなかった。
トルストイの風景描写の細かさはそのひとつひとつが実は心理描写であり、
木の上でヒバリが泣いているその鳴き声と、空気のひんやりとした感触と見上げる空の青さが一体となって、そこにいるアンドレイの心を表している。
それは音楽が心の深さを表現するやりかたに似ているのかもしれない。
だからこのトルストイの小説を、他のヨーロッパ小説と比較することは無意味かもしれない。
とてつもない読み物だ。
これを前にするとジャンクリストフやトーマスマンの小説も少し違うだろうと思えてしまうのだ。
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