古井由吉さんが言うには、日本漢詩の最高峰は室町五山文学だそうです。いやあ、聞いたこともなかったが、室町時代の京の五山の寺の坊さんたちが書いた漢詩。
これがとてつもないものなのだそうです。
さて日本近代詩の有名どころは萩原朔太郎、三好達治、島崎藤村、北原白秋などなど。
しかし古井由吉は言うのです。
日本近代最高の詩人は文句なしに夏目漱石であると。その漢詩はたった一人で室町五山に匹敵するのだと。
最後の作品となった明暗執筆中には午前中漢詩を書いて、昼から明暗に取り組んでいたという逸話を聞いたことがありましたが、単なる余暇ではなく、もしかしたら小説以上に文人夏目漱石の才能が発揮されたのが漢詩なんですね。
もし通常の詩であれば、北原白秋、島崎藤村以上、みたいなことになっていたかもしれません。
さて最後の漢詩を書写してみました
この漢詩(無題)は、大正5年11月20日の作品である。その19日後の12月9日に夏目漱石は亡くなっている。つまり夏目漱石の最後の漢詩である
ちょっと間違えましたが。漱石の息吹を自分なりに感じました。
内容は以下。
さてなぜか漢詩というのは中国ものも日本人ものも、ほとんど口語には翻訳されませんね。味わいは漢文読み下し分でやり、意味だけはとらえよう、みたいな感じです。
そこで自分で超訳してみました
【真実の背中が無心の中に揺れた・・・・・・】夏目漱石
真実の足跡の
その痕跡はとてもさみしい
私は長い間 それを真摯に求めてきた
万巻の書が示す幾多の道も眺めてきた
失ったからなのか 追いつけなかったからなのか
今 真実の姿が私には見えない
しかしどうしたことだろう
美しい山々にも
煌めく川の流れにも
あさましい自我などないことに
私は気づいてしまったのだ
天から地にいたるまで
万物には思い煩う心はどこにもなく
ただあるがままで満たされているのだった
目の前には もやにけぶる夕暮れがあり
その中で
草茂る地上から今空へ月が登っていく
木々の梢に秋風がささやきながら
枝を揺らす
両目と両耳と揃えている小賢しい
このわたしもまた
それらの感覚を閉ざす時がきたようだ
何も感じることなく
この宇宙の中で無心に歌っていよう