【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

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若きシヴァとオシリスに吹く風  海部奈尾人

レムリア文明最後の女性大統領シヴァと、それに仕える脳力者オシリスは若い時ともに同じ学園で過ごした。

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 蝶が飛ぶ。

 蝶は風そのものとされていた。見えない風の動きを忠実に再現して飛んでいる。人は蝶を見ることで風を見るのだ。

 オシリスはその蝶の影を目で追っていた。やがて目を閉じて心で追った。そして、脳のある部分を発火させるとさらに蝶を追った。すると、蝶がこれからどのように羽をはためかせどのように風に溶け込んで、この菜の花畑の上を揺らめいていいくのか、すべて見切ることができた。

オシリスオシリス・・・」

遠くで自分を呼ぶ声がする。だが今オシリスは蝶に憑依していた。自分のからだを揺らすシヴァを蝶の目でみながら、オシリスはシヴァの肩に止まった。

美しいうなじ。聡明な瞳。そして軽やかで深い心。

シヴァは人間という在り方のひとつの完成形であると思った。

蝶から自分に意識が帰ってきて目を開けるとシヴァの息遣いが聞こえるほど二人はくっついていた。

「また意識を飛ばしてたのね。蝶の中にいたんでしょう。肩の上にあなたを感じていたわ」

脳力者でもないのにシヴァのこの感覚はいつも驚かされる。あるいはシヴァも別のタイプの脳力者なのか。

「ねえ、昨日の私の夢の話聞いてよ。とてもリアルだったの。この広大な大陸がみな海底に沈んじゃうのよ。それも一日で」

「もしそれが正夢になったら、ぼくは命をかけて君を守るよ」

昼休みの終わりのチャイムが鳴った。シヴァは話足りず不満げに唇をきっととがらせて

「約束よ」

と言った。