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ある移住7/27  第一章【大洪水へのオシリスの警告とシヴァ大統領の苦悩】海部奈尾人

ある移住7/27  第一章【大洪水へのオシリスの警告とシヴァ大統領の苦悩】


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私たちの知る年代で測ればそれは西暦紀元前1万2000年のことだった。

日ごとに海面が上昇していく様は、港の桟橋が干潮時でも水の中にあることからも誰の目にも明らかだった。

こんなことははじめてだった。


議会は炎上していた。

大脳の能力を極限まで使いこなす「脳力者」と呼ばれる、現代風に言えば超能力者たちは、世界中の氷河が解けていくことを間脳の視床下部で察知し、やがて、この広々とした大地のすべてが海の底になると警告していた。

そのため、まだ被害のない今の時期に高台に全住民を移住させるという議題が、大統領から議会に提示されたのだった。

情報の真偽から、移住先の是非、移住の優先度、現在の土地に持つ既得権の調整、議会はいつはてるともない難問で空転して怒号が飛び交っていた。


シヴァ大統領は苦渋の決断を迫られていた。

側近の「脳力者」集団の長であるオシリスは、こうアドバイスしていたからだ。

「今は徐々に水かさが上がっていますが、はるか北の大陸の巨大湖の地下氷河が溶けると、周辺の岩盤が水の圧力で破壊され、信じがたい量の水が一気に海面に流れ込みます。そうすると、われらの都市は一夜で海底に沈む。もういつそれがお起こっておかしくないのです」




シヴァ大統領の統治する土地は、現代の地図でいえばインド半島から、アラビア半島に至る大陸棚である。北米の氷河が溶ける前の時代、この大陸棚こそが文明を発祥させたエデンであり、アトランティスでありレムリアと呼ばれるものの起源だった。広大な平野は豊かな穀物栽培と星と地球とリンクする超能力者をも生んだ。彼ら脳力者たちが文明を発展させたのである。