小説の表現
「風が吹く」というのは詩の表現であっても小説表現としていまいちだ。
だから
「風が吹く。男はさっそうと車からビルの入り口に向かった」
こういう文章を書いていては小説世界が広がっていかないから、論文のような内面描写ばかりになっていく。
たとえば
「男はラジオで聞こえてくる最近のニュースに気分がくさっていた。
国際関係に役人たちの不正やごまかしなど。
馬鹿野郎と心でつぶやきながら車を運転していた。
しかし目的地についたとき、ちょうど虹が見えたので心がとても癒されてやさしい気持ちになって勇気がでてきた。
自分は運がまだいいみたいだ、これならいろいろな困難があっても自分は人並み以上の成果を出せるだろう、そんなことをつぶやきながら車から勢い込んで出た。
その時風が吹いた。男はさっそうと車からビルの入り口に向かった」
こんな文章になってしまうなら、その小説は作者の独善的な内面の語りになっていく可能性が高い。
この文章がなぜ小説世界を深めないかを理解しない人も小説は書けない。
書いたとしてもそれは繰り返すが内面を吐露する論文だ。
内面の声を書くのは一番簡単なのでそのまま書いたら小説はぼろぼろになるのである。
小説とは文章を使った芸であるから、芸であるからには芸を身に着けないといけない。