【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

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自作の詩 キーツの詩 神 花 イタリア

BY 古荘英雄


    イタリアへ旅発つジョンキーツを思い描いて

               

 無垢な少女の口元からがあふれ有機体とは思えぬほどに透き通る真っ白な口元に一筋の真紅の流れが生まれるそれは命そのものでありながら人の目に触れたとたん死神そのものに変わる

こぼれ出て赤い唇をさらに染め上げるそのもののこの世ならぬ美しさにわたしたちは戦慄を覚えるのだ 




 だれもが忌みきらうほどの美しさを規則正しく言葉で編み上げ時の海に浮かべどこへたどりつくかはわからぬが海流がかなたへと運ぶことだけは知っていたなぜならば信じることが出来たのだ

自分の宝石のような詩が潰えることはないのだと

この自分とは神の至急の用事で天に戻る天使なのだと




 諸世紀の海原を果てしなく漂えるほどの言葉の束を体中に巻きつけていながら二十六歳にして婚約後半年の浮世の喜びの最中で不治の病という神の至急の使者が訪れる一族は多く肺を病み医師の修行をした彼自身誰よりもこの肺が命の営みを回復するのは不可能だと知っていたモハヤコレマデ彼は断念し決意し恋人と名ばかりの静養のためイタリアへ旅立つ




 ブリテン島の気候と離れたとしてもから逃れる術はないとわっていながら恋人を また すべてを手放し自らの内部空間だけを引っさげてイタリア経由で天国へ向かったのだ。


 彼の心はわからない。イタリアへ旅発つ前夜のことをわたしは知らない。だがそこにある普遍の心情は察するに難くない。背景が変わってそこにある体験の核はくっきりと浮かび上がっている。

 そしてその死の炎からさらに舞い上がる彼の詩句はこの世から生まれたものではない。呼び戻される天使は天上のリズムを置いていくのだ。そもそも天国からの脱走者が逮捕され護送されたのかもしれない。

 人には美しすぎる言葉を蒔いた罪で

 神の言葉を無断で使用した罪で

 わたしはキーツの写真を見て想像するのである




若くして死んだ吸血鬼のような天才たちがもしも熟成を迎える稲穂のように生命の頭が地に向かって垂れるほどに長い長い時をその心に蓄えたらたとえばキーツ八十歳の筆が示すものはホメロスやインドの叙事詩のように一人だけで民族の神話を造り出してしまったのではないだろうか 種族全体を象徴するような叙事詩、苦も無く出現してはまずいのだと早々と呼び戻された彼ら。彼らはその破片を垣間見せるだけなのだ


 キーツは死の直前、天井に花園を見たという。