ギリシャ神話で、死を擬人化した神。 眠りの兄弟、また夜の子とされる。 フロイトの用語で、生の本能に対する、無機物の不変性に帰ろうとする死の本能(衝動)のこと。
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《タナトス》
Ⅰ.
①
ある時は夏の沖縄の昼下がりの
まぶしげな表情で笑う草履ばきの女の子
またある時は厳冬のシベリアの平原で
雪にまみれて哀しげなロシア軍の女性兵士→表現が少し変化も
③
ある時は倒れた血まみれの牡牛を前にして
剣を握り胸を張って
息を乱している女闘牛士
→この青の部分の表現はなんとなく不安定に感じる。言葉が過剰かもしれない
百の女の顔
百の女の顔で敵・タナトスは僕の傍をいつも
沈黙のまま片膝を立ててそっと佇んでいる
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Ⅱ.
思えば少年時代からの長い付き合いだ
敵・タナトスは機会があれば
その手で僕の首を締めようとする
僕は、痛いのや苦しいのが苦手だから
眼を閉じ耳を塞いで逃げ惑うが
敵・タナトスは僕の影そのものものだ
→少し文章がわかりづらい
僕につきまとい
そして僕を透明に見詰めて機会を窺(うかが)っている
敵・タナトスから逃げる
今度こそ逃げおおせて見せるとも!
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Ⅲ.
①
燦々と輝く太陽だ
間抜けた調子で鳴り響く花火
ぺちゃくちゃ興奮したスペイン語の喋り声
管楽器と喇叭のうるさい音楽
カーニバルに浮かれる人々
僕は路地で祭の絶頂を待っていた
この坂道を一気に駆け抜けて海へ行くのだ
そして僕は敵・タナトスを振り払ってみせる
全力で走り出す
②
だが転がるオレンジを踏んで足を取られ
狭い坂道をそのままスッ転んでゆき
白塗りの壁にぶち当たって倒れてしまう
下卑た言葉で罵られ
ラム酒の瓶が投げられ酒の臭いが充満する
海まであと少し
なのに倒れたまま身体が動かない
白壁を斑(まだら)に染める血とラム酒
祭の騒音が静まってゆく
Ⅳ.
そして僕は見るのだ
坂の上から逆光の中タナトスが歩み寄るのを
僕はまぶしくてもタナトスから眼が離せない→文章が変
タナトスはそっと僕の傍らにしゃがみ込む
それからまるで花が咲くように頬笑むと
僕の血塗れの頭をその豊かな乳房に
ふわり、と抱きしめる
懐かしい恋人の甘い肌の匂いだ
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講評
迫力を感じるし言葉に力がある
それは筆力であって筆力自体は評価に値する
狙いにも共感するしこの詩が語ろうとする世界にも共感する
だが「長さ」というものをマネジメントしていない
なのでよくわからない構成となり
感覚としては尻切れトンボで終わると言うか
どこでどのタイミングで終わったかも読み返さない限りわからない
そしてたぶん最後はⅠの①②③の女たちがメタファーで登場してるのだが
うまくいっていない
長い詩は言葉以上に構成が意味をつむぐものである
細部
これで終わるとⅠの①②③は不要に感じる
上手くこなしきれているといいメタファーになって迫力を生む
そもそもⅠはいらずⅡからでいいかもしれない
Ⅲのスペインのカーニバルのまま Ⅳのカーニバルの延長上で終わってしまうので
ⅠとⅡが不要になるというか自我の自己主張にしか感じなくなる
この長さを感覚で書いていると思う
この長さだと構成によって表現することができるのに
10行程度の詩のように書いている
言葉をくれ の場合は物語が長さに統一を与えていたが
この詩は統一させるものは意味によるメタファーであろう
しかしそれがないからバラバラ感を感じる