【ブログ版】世界の名作文学を5分で語る|名作の紹介と批評と創作

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自作の詩 群れ    詩作  by辻冬馬

文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ

群れ


中に立ち入れば

禍事も慶事も群れの中に隠れている

人々は互いに感じ合って

ざわめきが収まる気配はない

反応の連鎖に疲れ

感覚に自他の区別が消え

いつの間にか中心が空洞となり

群れが出来上がる


表情はどこに?


一人一人をズームアップして行けば 

意味を剥ぎ取る残虐な仕打ちの果てに

土台でしかない顔が浮いている

白黒の映像の中に悲惨が染わたっているが

五十年前の赤の他人の一般人に

生の人間を感じるのは至難の技

慟哭や破顔の笑顔は描けない

その頃世界が白黒であったわけでもないのに

白黒の人々として距離を置こうとしている

それにもかかわらず今と同じカラーで

同じように音が聞こえる

同じように心が波打つ

同じように表情が鼓動する


表情はどこだ?



今日の出来事を告げるテレビ画面

なんの為の彼らだろうか

なんのための犠牲だったろうか

壁のペンキが剥げるように消えたもの

女の服を剥ぎ取るように奪われたもの     

数多のやじ馬たちの

ありとあらゆるところに登場する不可思議さ

もしかしたらそのうちの十人くらいは

永遠に出現し続ける妖精なのかもしれない


表情はどこへ?


集うにこやかな人々の緩んだ顔

親しく回数を重ねれば緩む

男は手のひらを緩め

女はからだを緩める

男を手に入れるために濡れ

子供を手に入れるために緩む

男によって緩んだ頃に

男を捨てるのだ 

道端でからだをよせあってじゃれあって

男にすがる女も緩めば子供を選び男を捨てる

そのことを知らぬおろかなカップルが

群れて濡れようとする

緩みへ向けて逢瀬を重ねる

おろかな逢い引きを昼夜問わずに繰り返す

誇らしげなただの女や

何者でもない男の子が群れてじゃれる

群れの中に何があるのか

誰がいるのか

群れごとその中心を

放り投げればかたがつくと

短絡的に思えれば・・・





やがて平和に発展し




新築の2LDKの賃貸マンションに

夫を待つ新妻が群れる

夜ごと繰り返される締まりと緩み

群れから一つだけが生き残る残虐な選択

滅びゆく漏れた一般の個体たち

その死へのカウントダウンまで

女たちは

暗闇に緩んだ表情をつくり

それを男に愛撫させる

そして時の波間にたゆたっている


表情が来る


言祝ぐために また悲しむために

生きるために 言い残すために

滅亡のような死の群れの後でも

顔を隠しながら貪る

能天気なカラーの群れ

本当に救いが来たこともあるが

来ないことも多い

漏れた一人の少女の絶対の悲劇に感応する心を

持つことが人間性 仏性 神性

その重荷は夢魔となり取り込まれたら終わるから

表現の秩序が必要になるのだ



どこかに舞台裏があるのだろうか

観客の群れがいずこかでのぞいているのだろうか

廃墟を眺め風に吹かれて

生きる としょう 

それは意志である

長い旅の果てに故郷に戻ったかのような終点


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