文学創作 小説 詩 ポエム エセーのためのカフェ
合作(古荘 海部 辻) 写真:じゅん松本さん
代表 辻冬馬
約束の木々に吹く風
あれはまだぼくが
父さんと母さんと暮らしていたころのことだ
そして
あの霊に満ち満ちた愛犬が
ぼくの前を長いリードをぴんとはって走っていたころのことだ
父さんが去る前に
男の約束だと公園の老木に
それぞれ何かを埋めて行った
この木は15歳で掘れ
この木は17歳で掘れ
この木は20歳で掘れ
これは結婚したら
これは子供ができたら
あの冬の日の雪の駅で
父さんはぼくに伝えた
それから愛犬レオは旅立った
母さんの膝の上でやすらかに
それから母さんも旅立った
レオに毛布を届けにいくというのが
最後の言葉だった
以来ぼくは一人でいたが
父さんはいつもこの世にいて
ぼくに手紙をくれたんだ
父さんの手紙の住所を訪ねると
そこはあの公園だった
古くしなやかな木々が
風にその枝を揺らせている
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少年はその森の脇の母の墓に
いつも誰かが花を飾っていることを知っていた
その日手紙の住所の森の木々をぶらぶらしながら
母の墓に祈る父をみた
二人は離婚したが
父はいつも遠くから母と少年を見守っていた
少年は一つの謎を解いた
この木の下は
父さんの心を知った時に掘れ
今日少年はそれを掘った
生まれたばかりの少年が母の脇で産声をあげ
父が初めての親子の対面に
顔をこわばらせつつ微笑んでいる
そんな写真がたくさんあった
この世では相いれない心と心が
あそこで再び相まみえていると
少年は母の墓に吹く父の息吹で感じ取ったのだった
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